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ビル清掃ローグライク『SKY THE SCRAPER』は「夢を見つけるまでの過程」を描く若者の人生シミュレーターだった【TIGS2024】

実家が太ければ太いほど、実はその中に住む子供たちは「貧しくてもいいから大海原に飛び出してみたい」と思うものではないでしょうか。

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ビル清掃ローグライク『SKY THE SCRAPER』は「夢を見つけるまでの過程」を描く若者の人生シミュレーターだった【TIGS2024】
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家を飛び出して、自分の可能性に賭ける若者。実家が太ければ太いほど、実はその中に住む子供たちは「貧しくてもいいから大海原に飛び出してみたい」と思うものではないでしょうか。

そうした「若者の心」を疑似体験できるゲームが、先日開催された『TOKYO INDIE GAMES SUMMIT』で展示されました。それが『SKY THE SCRAPER』です。

主人公はビル清掃員として、高所での危険な作業に従事します。ビルの外側の汚れをできるだけ多く拭き取るルールです。しかし、『SKY THE SCRAPER』はそれだけではありません。あるひとりの若者の「遠くない将来を見つけ出す」人生シミュレーター……と表現すればいいでしょうか。

家出青年スカイの「危険な仕事」

『SKY THE SCRAPER』の主人公スカイは、実家を飛び出して独り暮らしを始めた青年です。父親からは「早く帰ってこい」と言われていますが、スカイにそんな気は毛頭ありません。

一方、ゲーム開始時点のスカイに明確な夢や目標があるかと言われれば、決してそうではありません。目標はまだ見出せないけれど、胸の中に「何かをやらなければ」という切迫感がある状態です。

とりあえずスカイは生きなければなりませんから、日雇いのビル清掃の仕事を行います。これはビル内部の床にモップや掃除機をかけるものではなく、ビルの外側の汚れを命綱にぶら下がりながらワイパーで拭き取る作業です。振り子のように左右に移動し、外壁に貼りつき、ワイパーを振るって汚れを除去します。スパイダーマンよろしく空中で姿勢を保持しますが、残念ながらスカイは人間。スタミナに限りがあります。

スタミナが枯渇したり障害物に当たったりすると、スカイは高所から落下。怪我をしてしばらく働けなくなります。最悪、二度と仕事ができない身体になってしまいます。しかし、この仕事は「どれだけ多くの汚れを落としたか」で報酬が決まるもの。税金や家賃の支払いに追われているスカイは、多少の無理をしてでも汚れと格闘しなければなりません。

誰しもが持っていたはずの「若者のエネルギー」

「どうしてお前はロクな目標がないくせにそんな無茶をするんだ。もっと真っ当な仕事をしろ!」真面目な大人は、ティーンエイジャーにそう説教しがちです。

しかし、自分自身を振り返っても分かる通り二十歳前後の若者は「自分はもっと別の人間になれるんじゃないか?」「こんなところでくすぶっているのはもったいないんじゃないか?」と思案し続けます。それは無尽蔵のエネルギーに由来するもので、階段を上るにも息を切らすようになった中年が頭ごなしに否定することはできないはずです。

目標や夢を見出す前に動き出すことが、そんなに悪いのでしょうか? 本当に恥ずべきは、あらゆる理由を捻り出して「新しいことは一切しない」と胡坐を掻く「真面目な大人」の発想ではないかと思います。

スカイのやっている仕事は、恐ろしく危険です。常に落下事故と隣り合わせで、汚れを多く除去できなければ安い日当で終わってしまいます。ヒヤリハットの連続で、仕事中は気の休まる瞬間がありません。

しかし、いや、だからこそスカイは「俺は実家に縛られない生活を送ってるんだ!」という実感を持っているのではないでしょうか。

ゲームが描く「船出直後の時代」

『SKY THE SCRAPER』は実際にプレイしてみると「容赦ない世知辛さ」があり、派手にお金を稼げるようにはなっていません。常に支払いに追われていて、そのくせサボろうと思えばどこまでもサボれてしまう作りに仕上がっています。

自由とは、つまるところ「サボる誘惑」との戦いです。それに打ち勝ってまとまったお金を手にした先に、どこまでも広がる草原のような可能性を見据えることができます。

『SKY THE SCRAPER』は、冒頭にも書いた通り単なるビル清掃ゲームではありません。若者の苦悩や「夢を見つけるまでの過程」を描いた青春追体験ゲームです。そこには誰しもが経験するはずの「船出直後の時代」がリアルに再現されています。

若者の勇気を称賛しよう!

今回、イベント出展されていた『SKY THE SCRAPER』を筆者は僅かながらプレイしましたが、それでも自分自身の過去を思い出すのには十分な時間でした。そういえば、自分にもこんな時代があったんだ、と。

若者の衝動的な家出が最終的にどうなるかは、誰にも想像ができません。結局は散々な失敗に終わる可能性も、もちろんあります。『SKY THE SCRAPER』でも、高所から落下して大怪我するというバッドエンドが用意されています。

では、そのバッドエンドを回避するために「何もしない」という選択肢を選ぶのが一番賢いのでしょうか?

筆者の経験上、「何もしないこと」を「賢明な行為」に粉飾することは非常に簡単です。しかし、「何もしなかったこと」により人生経験の蓄積がまったくされず、それ故に人生の中の意図せぬトラブルやつまづきにまったく対処できなかった……という人もいます。

それに比べたら、自ら危険な仕事に志願してでも自力で明日を掴もうとするスカイの勇気は称賛してあげるべきだと筆者は考えてしまいました。

そんな『SKY THE SCRAPER』は、Steamで2024年内の配信を予定しています。

《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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