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京都でゲームカルチャーを盛り上げる!「ホテル アンテルーム 京都」豊川泰行さんインタビュー

『BitSummit Let’s Go!!』期間にインディーゲームにまつわる施策や展示会を打ち出し、実際に多くの開発者がお世話になったという「ホテル アンテルーム 京都」のマネージャーにその思いを聞きました。

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京都でゲームカルチャーを盛り上げる!ホテル アンテルーム 京都・豊川泰行さんインタビュー【BitSummit】
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『BitSummit Let’s Go!!』で多くのインディーゲーム開発者がお世話になったであろうこの笑顔。

本記事では、「ホテル アンテルーム 京都」のマネージャー・豊川泰行さんに、現代アートとインディーゲームの展示『art bit - Contemporary Art & Indie Game Culture - 』(以下、art bit展)開催のきっかけと込められた思いをお伺いしました。


2013年から毎年京都で行われているインディーゲームの祭典『BitSummit』。2023年7月、今年で11回目を迎えるイベントは、3年間のオンライン開催と縮小開催を経ての会場開催の復活で、過去最高の来場者数23,789人を記録し、すっかり活気が戻っていました。

世界中のインディーゲーム開発者たちが、ファンそしてパブリッシャーとの出会いや交流を求め京都に集まるこのイベント。国内外から集まったクリエイターに安心して休める場所と交流の機会を提供し、慣れない土地での不安を取り払うため会場直行のシャトルバスを手配し、それを毎朝笑顔で見送っていた影の立役者がいました。それがホテル アンテルーム 京都のマネージャー・豊川泰行さんです。今回の『BitSummit』では、なんと約100名ものインディーゲームデベロッパーが豊川さんとホテル アンテルーム 京都にお世話になっていたのです。

毎朝インディーゲームクリエイターたちが無事会場に辿り着くよう見守ってくれていた豊川さん。

ホテル アンテルーム 京都では2021年からこの開催時期に合わせ、公式ホテルとして『BitSummit』と協力し合い、現代アートとインディーゲームを融合した企画展「art bit展」を行い京都のインディーゲームシーンを盛り上げてきました。その展覧会の発起人の一人でもある豊川さん。普段はホテルのマネージャーをしている豊川さんがなぜここまでゲームカルチャーへの支援をしているのか?そのきっかけと込められた思いをお伺いしました。

『BitSummit』との関係と「art bit展」開催のきっかけ


──普段の豊川さんはどのような業務をされているのですか?

豊川泰行さん(以下、豊川※敬称略):ホテル アンテルーム 京都でフロントやアパートメントのマネージャー、そしてホテル併設ギャラリーのマネージメントを担当しています。

──2021年から『BitSummit』と関連した展覧会「art bit展」に取り組んでいらっしゃるとのことですが、開催のきっかけを教えてください。

豊川:2020年に『BitSummit』主催者の一人、村上雅彦さんにご挨拶をする機会があり、そこで私のゲームカルチャーを盛り上げたいという思いに共感をいただき、現代アートとインディーゲームを融合させた展覧会の企画案が生まれました。

村上さんも、従来のゲームという枠には収まらないような作品にも発表の機会を作ってあげたいという思いをお持ちだったんです。「これってビデオゲームなのだろうか?」と感じさせる新たな作品の存在と、「そもそもゲームってアートだよね?」と言う思いが重なり合ったことがきっかけで、共同主催として「art bit展」を開催させていただくことになりました。私は「art bit展」では、主に現代アートの作品選定と、展覧会のテーマ設定をしています。

ホテル アンテルーム 京都について

──現代アートギャラリーが併設されているホテルは珍しいですね。アンテルームのことと、豊川さんが関わるようになった経緯を教えてください。

豊川:ホテル アンテルーム 京都は、元々予備校の学生寮だったものをホテルとアパートメントにリノベーションし、「常に変化する京都のアート&カルチャーの今を発信する」というコンセプトのもと、2011年にオープンしました。

1階のアートギャラリーでは今まで、Sandwichの名和晃平さんや、ウルトラファクトリーのヤノベケンジさんなど、京都を拠点に活動されているアーティストの方々と一緒に展覧会を行なってきました。京都は芸大も多く、ここを活動拠点に世界的に活躍しているアーティストの方々がたくさんいらっしゃるんですよ。

私がアンテルームに来たのは2019年でした。今もホテル業界で働いているように、ずっとゲームとは別の業界にいました。最初はシステム系の会社の営業、その後デザイナーズホテルの支配人としてこの業界を勉強させていただき、新たなチャレンジを実践するためこのホテルに移りました。ゲームとアートの展覧会や、作品とコラボしたコンセプトルームなど、アンテルームのコンセプトを軸に少しずつ自分たちができることを広げていっている状態です。

立命館で培ったゲームへの情熱

──豊川さんがゲームカルチャーに熱心になったルーツを教えてください。

豊川:私の母校の立命館大学では、ゲームのアカデミックな研究を世界に先駆けて実施していたんです。学生時代にはそこで「ゲームアーカイブプロジェクト」というゲームを保存する取り組みや、「プレイエディット」という子どもたちにオリジナルの遊びを考えてもらう研究などを行っていました。

大人になってゲームから離れていたんですが、自分の子どもが大きくなってニンテンドースイッチを夢中で遊び始めるようになり、放っておくととんでもない時間遊んでいたりします。一部の地域ではプレイ時間の規制が問題にもなりましたが、ゲームの体験はすごくパワフルでリッチだと思うんです。折角の体験なので、そのまま買い与えるだけではなく意味のあるものにしたい。大学時代に取り組んでいたテーマと改めて向き合う時期が来たのではないか、そう思ったことがきっかけで、このホテルアンテルーム京都で、京都で育まれ、世界に広がっていったゲームカルチャーの魅力を発信することを考えるようになりました。

──そうだったんですね。立命館在学中のゲーム研究について詳しく教えてください。

豊川:「ゲームアーカイブプロジェクト」は今でさえ配信で過去作を遊べるようになってきましたが、当時はハードが刷新されていく中、遊べなくなっていくゲームが多く、開発者の方々の知見を含め、どのようにゲームという体験を後世に残していくのかということに取り組んでいました。すでに先輩たちが頑張っていて、私は盛り上がっている中に参加した形でした。

「プレイエディット」は、子どもたちがオリジナルの遊びを考えるためのソフトウェアを活用したプロジェクトで、子どもたちにオリジナルの「◯◯鬼ごっこ」や「◯◯ドッジボール」のような遊びをソフトを使いながら考えてもらい、実際に他の子と一緒に遊んでみるということをやっていました。プレイエディットというソフトでは遊びを、役割・道具・舞台・ルールの4つに分解して、新たな要素や組み合わせを試すことができ、遊ぶ前と後でアンケートを取ることで、遊びが子どもたちの創造的な思考にどんな影響をもっているのかといったことを調査していました。

その時にお世話になっていた先輩がいまも立命館で講師や研究員として活躍されていて、アンテルームでゲームの企画を始める前、約10年振りに連絡をして近況を教えてもらいました。その中でゲームスタディーズとインディーゲームについて教えていただき、そのことがきっかけでインディーゲームに注目して、「Kyoto Indie Meetup」を知りたくさんの方と出会うことができました。大人になってゲームを遊び、学び直して、改めてすごいジャンルだなあと感じています。

──豊川さんは今までどんなゲームで遊んでいましたか?

豊川:私は1982年生まれで、ちょうどファミコンが発売になる1983年の一年前に生まれました。小学校に入った頃からゲームを遊び始めて、親戚のお姉さんが『マリオブラザーズ』を持っていて、私も『スーパーマリオブラザーズ』を遊ぶようになったり、ファミコン、スーパーファミコン、プレイステーションと、日本のゲームのいわゆる黄金時代をガチガチに遊んで育ちました。大学に入った頃はプレイステーション2が発売されたり、ゼミで研究をしていた時期はニンテンドーDSが発売された時期でした。

「Kyoto Indie Meetup」での出会い

──「Kyoto Indie Meetup」に参加されていたとのことでしたが、そこからどのようにゲームカルチャーに関わることとなったのでしょうか?

豊川:はい。「Kyoto Indie Meetup」は毎月インディーゲームのデベロッパーが集まるイベントだったんです。そこで村上さんと出会い「art bit」を始めことになりました。村上さんとの出会いとは別で、このイベント開催につながるもう一つの出会いがそこでありました。

初めてのゲーム系イベントは『Branching Paths』上映会

豊川:「Kyoto Indie Meetup」に参加する中でゲームカルチャーを盛り上げる企画がなにかできないかなと考えていたとき、日本のインディーゲームデベロッパーたちの制作過程や『BitSummit』の裏側などを撮影したドキュメンタリー映像作品『Branching Paths』を知り、その上映会をしたいと思い立ち、監督のアン・フェレロさんにお願いをしたところ快く了承いただきました。上映会では監督のアンさんや京都のインディーゲームクリエイターの方々を招いてトークセッションの場も設けました。ゲームクリエイター同士でお話しする機会も作ることができてよかったです。

「Kyoto Indie Meetup」もここで開催したいねというお話も出ていたのですが、その後コロナ禍が訪れ、イベント開催自体が難しくなってしまいました。

宿泊者用のインディーゲームプレイスポットと、『アンリアルライフ』コンセプトルームを企画

──これからという時期に大変でしたね。どのように取り組みを変えたのですか?

豊川:人がたくさん集まらなくてもできることとして、ホテルのバースペースにインディーゲームのスポットを置きました。インディーゲームという言葉がまだまだ一般の方々に知られる前だったので、日頃ゲームに触れていないような方にも、インディーゲームに接してもらえる機会になればと思い、アンさんに相談し、クリエイターの方々をご紹介くださり、実現に至りました。短時間でサクッと遊べる作品はもちろん、じっくり楽しめるアドベンチャーゲームも遊べるようにしていたのですが、知らないお客さん同士でセーブデータが数珠繋ぎのように進められていく興味深い様子も見られました。

「art bit展」のインディーゲームのプレイスポットの様子。

プレイスポット以外ですと、『アンリアルライフ』というインディーゲームのコンセプトルームを作ってファンの方々に楽しんでいただくような取り組みを行いました。実はリリース1周年記念に「アンリアルナイト」というイベントを開催しようとパブリッシャーのroom6のみなさんと企画していたのですが、コロナ禍でできなくなってしまったんです。そこで開発者のhako生活さんとroom6のみなさんとお話ししてイベントの代わりに何ができるかを考え、「アンリアルルーム」というコンセプトルームを作ることになりました。

room6代表の木村征史さんをはじめ、みんなで壁紙貼りから机下へのパソコンの設置まで、手作りで一緒に完成させました。結果、多くのファンの方々に「最高でした」とお声掛けをいただいたり、SNSにも喜びの声が溢れ、やって良かったと心から思いました。

バー内のゲームのプレイスポットでは『アンリアルライフ』をはじめとしたインディーゲームレーベル『ヨカゼ』の作品も試遊できます。

これがきっかけで、毎年『BitSummit』の時期は展覧会とコンセプトルームをセットで開催するようになりました。2022年にはイラストレーターの米山舞さん、今年は漫画家の西島大介さんとのコラボレーションが実現できました。ゲームは映像も音楽もある、総合的な芸術だと思います。ゲームカルチャーを軸にしながら、その隣接領域のアーティストやクリエイターの方々とも一緒にお互いのカルチャーを盛り上げることができればと考えています。

ついに「art bit展」開催!

──紆余曲折を経てやっとインディーゲームと現代アートを融合させた展覧会「art bit展」が開催できるようになったのですね。

豊川:そうなんです!初年度は「現代アートとビデオゲームってどうつながっているの?」ということを少しでも感じてもらえるように、『BitSummit』を主催されている村上さんやSkeleton Crew Studioの石川武志さんたちと一緒に展示を企画しました。

便器にサインを書いたらそれは芸術!体験と解釈こそがアート

──現代アートとインディーゲームの接点を表現したのですね。

豊川:現代アートの原点として、1917年にフランスのマルセル・デュシャンが便器にサインを描いて作品として応募し、「これはアートなのか?」と言う問いかけを行ったことが、一つのスタート地点だと考えられています。

実はデュシャンはアーティスト以外にフランス代表のプロのチェスプレイヤーの顔も持っていて、彼はアートを作ることと、チェスをプレイすることは一緒だと考えていました。チェスもアートも、プレイヤーと観客がそれぞれの頭の中で繰り広げる解釈や可能性の広がりこそが芸術だと考えたんですね。

チェスとアートが同じだと考えると、現代アートも最初からゲームとして設計されていて、いまのアーティストたちは自分でそのルールを解釈したり、変えてみたりしながら作品を制作している、現代アートというゲームに参加しているプレイヤーであり、ゲームクリエイターたちなんだ、と思ったんです。現代アートのアーティストたちはゲームクリエイターでもあり、ゲームクリエイターたちは総合芸術を作っているアーティストだ、という接点の図式はこのように出来上がりました。

インディゲームクリエイターはアーティストだ

──双方の接点が見えてきました!

豊川:私は「art bit展」では主に、現代アートのアーティストの選定をしているのですが、出展作品としてはビデオゲームや遊びの体験がベースにあったり、アートをゲームとして意識している方の作品を展示することに価値があるなと考え、選ばせていただいています。

現代はプレイヤー側もクリエイター側も、ビデオゲームに触れやすくなりました。昔はビデオゲームで遊ぶには高価なコンピュータが必要でしたが、ファミリーコンピュータ(Nintendo Entertainment System)が普及して世界中の子どもたちがゲームで遊べるようになり、画面上のものを操作してイメージを広げる体験ができるようになりました。みんな遊びながらクリエイティビティを活性化させて創作しているんですよね。

ゲーム制作もUnityやUnreal Engineのように無料で使えるリッチな開発ツールが登場し、できた作品はSteamで世界中に販売できるようになりました。これによって他業界のクリエイターやミュージシャンなどのゲーム制作未経験者も参入し、作家性を活かしたコラボレーション作品やメッセージ性の強い作品が登場したり、インディーゲームそのものの芸術性もより高まっているように感じます。

現代アートの持つゲーム性と、インディーゲームの持つ芸術性は、表裏一体で合わせ鏡のようになっていて、お互いが並ぶとそれぞれの魅力が際立つと思うんです。それを一緒に展示して魅力を楽しんでもらう、それがこの展覧会のコンセプトになります。

住民の生活を再現したらスーパーハードモードになった町おこしバイクゲーム

──そう捉えると、ゲームクリエイターはアーティストと言えますね。ゲーム性のある現代アーティストの展示にはどのような作品があったか教えてください。

豊川:初年度の「art bit展」には『伊吹島ドリフト伝説』という、瀬戸内海の島を舞台にしたゲームの映像作品を展示させてもらいました。制作者のcontact Gonzoさんは身体をぶつけ合うようなパフォーマンスをするアーティストの方々で、2014年国東芸術祭に参加された際にオンラインで配信できる作品の制作依頼を受けたことがきっかけでゲームを作りはじめたそうです。ゲーム制作未経験の彼らはプログラミングの知識をもった知人と共にまずは横スクロールアクションゲーム「国東クッキング伝説」を制作し、その後、制作されたのが、この『伊吹島ドリフト伝説』というバイクゲームでした。元々は「瀬戸内国際芸術祭 2016」に出展した作品だったんですよ。

contact Gonzoさん自ら伊吹島で暮らしている人々を観察し、生活の足として住民の皆さんがスーパーカブを乗り回す様子を見て、これは面白いと感じて作られたそうで、360度カメラをヘルメットにつけて町の映像を撮ったり、デジカメで撮影した画像をつなぎあわせて3Dマップに実装したのですが、狭いでこぼこ道を通る恐ろしく難易度の高いゲームになっていました。瀬戸内国際芸術祭の展示では、本物のスーパーカブにまたがって扇風機で風を受けながら遊べるようになっていて、初年度の「art bit展」では『伊吹島ドリフト伝説』の映像作品と他のゲームの展示のみだったのですが、どうしても実機でプレイしたくて、次年度の展覧会ではアンテルームで所有している鳳凰号というバイクによる展示を実現することができました。その他、ゲーム側でも、京都の宇治市が街を知ってもらうきっかけとして「宇治市~宇治茶と源氏物語のまち~」という、こちらも高難易度の横スクロールアクションゲームを制作されていて、ゲームと町おこしはお互いの良さが活かせて相性がいいですよね。

ロビーでは展示以外に物販コーナーも。京都発のゲームアパレルブランド「エディットモード」商品も購入可能です(画像は今年のもの。)

「フルクサス」はアート界のゲームの先駆け!?

──伊吹島の人々のリアルな生活がゲームになるとハードモードになるのは面白いですね。初年度から展示が盛りだくさんだったんですね。

豊川:はい、盛りだくさんの初年度でした。初年度で現代アートの原点に焦点を当てたので、翌年はそこから発展させたテーマにしたいなと考えました。現代アートにさらにゲーム性をもたらしたものはなんだろう?と考えて出てきたのが「フルクサス」というキーワードでした。

「フルクサス」は、1960~70年代にかけてメディアアートの第一人者のナム・ジュン・パイクさんも参加された前衛芸術運動で、鑑賞者の参加を促すような作品やフルクサス・キットという「この作品を購入したら、ご自身で私たちのアートを再現できますよ」というパッケージ化されたアート体験を販売していました。まさにアナログゲームのようで「これってまさにゲームだ」って思ったんです。ジョン・レノンのパートナーとしても有名なアーティストのオノ・ヨーコさんも参加されていた芸術運動で、オノ・ヨーコさんも後に「Play it by Trust」という白いチェスのゲーム作品を制作されています。

このアイデアをベースにし、第2回目の展覧会では、アートとゲームのあわいにゲーム側から問いかけを行っている「これはゲームなのか?展」のアナログゲームのクリエイターの方々にも出展をいただきました。「これはゲームなのか?展」は、プレイに1年間かかる作品などルールによってもたらされる体験から参加者の常識にゆさぶりをかけ、単純な楽しさだけではないゲームの可能性を探っている展覧会で、まさにゲームによってもたらされるアート体験を追及されている方々だと感じました。「これはゲームなのか?展」主催者のニルギリさんには今回の展覧会ではボードゲームバーをプロデュースいただき、お酒とともにアナログゲームを楽しんでいただける仕掛けを用意し、より手にとっていただきやすい形でアナログゲームの展示を行っています。

ニルギリ氏(するめデイズ)による未来の自分とクイズで競い合うゲーム『クオキ』のプレイ必要時間はなんと120日以上!今年の『BitSummit』で筆者に一つ後悔があるとしたら、それはこのゲームを遊び損ねてしまったことです……。
バーカウンターには酒瓶に紛れて、記憶の熟成のためにボトルキープされている『クオキ』のボトルたちが寝かされていました。

今までのゲームカルチャーに感謝したい

──ゲームとアートはとても近いもののように感じますね。

豊川:そうなんです。その年はゲームの先人の功績や言葉を伝えるようなパネル展示も行いました。

2021年に、ファミリーコンピュータの開発責任者で立命館大学でも教授をされていた上村雅之先生がお亡くなりになり、「ドラゴンクエスト」シリーズの名曲を生み出したすぎやまこういち先生もお亡くなりになってしまいました。そんな中、自分たちが遊び育ったゲームを生み出してくれた先人の方々やゲームカルチャーに何か恩返しができるような企画をしたいと考え、立命館に相談をして上村先生の功績や言葉を伝えるパネル展示をできることになったんです。『UNDERTALE』のトビー・フォックスさんをはじめ「art bit展」の出展者の方々からもメッセージをいただき、いまのアーティストやクリエイターに影響を与えた先人の方々に、みんなで感謝を捧げられるような展覧会になりました。ゲームの歴史を辿る展示については、今回の「art bit展」で同時開催している「ゲーム展TEN2」のパネル展示でもご覧いただけるようになっています。

今年のテーマは人類のクリエイティブな夏休みと夏の夜の夢

毛原大樹氏『ビデオゲーム傍受者の受像機「Telephono Scope」』

──今年で展示は3回目になる訳ですが、今回のテーマはどのようなコンセプトなのでしょうか?

豊川:今年は「ホモ・ルーデンスの夏休み、夏の夜の夢」がテーマで、子どもたちが自身の創造力を存分に発揮できる夏休みの自由研究のような作品群と、未知のものに触れる少しホラー感のある大人向けの作品群を展示しています。。初年度に原点、翌年度にはアナログゲームとゲームスタディーズの展示をし、年代的には1970~80年代まで振り返ることができたので、今年の展示はそこから次の年代をフィーチャーしています。

ホモ・ルーデンス=ラテン語で”遊ぶ人”

──「ホモ・ルーデンスの夏休み、夏の夜の夢」にはどのような意味が込められているのですか。

豊川:『ホモ・ルーデンス』は”遊ぶ人”という意味です。オランダの歴史学者のヨハン・ホイジンガが1938年に書いた本の名前なのですが、これも今のゲーム研究のスタート地点にあたるような興味深い本なんです。

文化や文明よりも先に、実は”遊び”が存在しているんじゃないか、しかもその”遊び”が文明の発展に貢献しているのではないか、と言う考えを表明しているものです。文化や文明を振り返ると、競争心や運に任せて楽しむ思考などが散らばっていて、その根っこにあるのは”遊びであり、人間の原点は”遊び”にあるのではないか、と言う考え方です。

ギャラリーのインディーゲーム展示ではプロジェクターの大画面で実際にゲームを楽しめるものも。

『ポケモン』って「野生の思考」だ

豊川:もう一つテーマの下敷きにしたものがあって、文化人類学者の中沢新一さんが執筆した『ポケモンの神話学 新版 ポケットの中の野生』という本はご存知ですか?川辺で魚取りをしながらゲームボーイの『ポケットモンスター』で遊ぶ子どもたちの様子を見た中沢さんが「クロード・レヴィ=ストロースの『野生の思考』がここにもあるじゃないか」と感銘を受けて書かれた本なんです。

『野生の思考』は、1962年にフランスの人類学者のクロード・レヴィ=ストロースが同名の本の中で発表した、部族社会に根付いているクリエイティブな思考で、森の中でありあわせのものを使って新たな道具を作ったり、物事の間に見えない関係性を発見し、それを神話や物語のような形で分かち合うことで社会にバランスをもたらすような思考回路のことです。著者の中沢さんは子どもたちを見て『ポケモン』を知り、ほのお、みず、でんきなどのタイプ別の相性や、無数の見えない関係性で設計された世界があり、子どもたちが遊びながらその関係性を見出し、それぞれに解釈しながら楽しんでいる様子を見て、野生の思考がいまも生き生きと息づいていることに驚いたそうです。時代とともに失われていったと思われていたクリエイティブな『野生の思考』が子どもたちやゲームクリエイターの中で生き生きと根付いているね、という内容の本です。

そして、「art bit展」では、ビデオゲームの発展と共に『野生の思考』も世界中に広がり、次のゲームクリエイターやアーティストが生まれているんじゃないかな、と思ったので、その流れを辿ることにしました。なので今年のテーマは『ホモ・ルーデンス』と『野生の思考』をセットにしたコンセプトなのです。

──深い!テーマの「夏」は季節に起因しているのですか?

豊川:それもあります。現代アートは『ホモ・ルーデンス』の”遊び”の因子を強く感じる方を、インディゲームは『野生の思考』を感じる方をそれぞれピックアップしました。すると不思議なことに、両者を並べたときに子どもたちがワクワクして楽しめる実験的な作品群と未知のものに触れドキドキするような大人向けの作品群が広がっていました。その様子を見て子どもと大人の夏の要素を押し出した「ホモ・ルーデンスの夏休み、夏の夜の夢」というテーマに決めました。

現代アートの展示を見ていただくと分かるように、ミニ四駆やプラレールなどの”遊び”のギミックが含まれた、1970~90年代に花開いたおもちゃを使用した作品がそろっていて、子どもたちの夏休みや自由研究のような感じを想像できるかと思います。そして、興味深いことに人ならざるものや人の奥に触れるホラー感のある作品も集まり、これも夏の肝試しや怪談の要素も感じられますよね。

やんツー氏『遅いミニ四駆』は実際に走らせ遊ぶことができる作品で、イベントの一環として《遅四》グランプリ エキシビションマッチも行われました。

人ならざるものといえば、近年ではAIが発展し、人と人ならざるものの距離感が少し変わってきたように思うんです。アートの世界ではAIイラストレーションが発展し無気味の谷のような現象も起きていますが、その谷の一線を越えようとしている時期のように感じます。そんな中、ゲームの世界はどうなっているのかという観点でピックアップされた作品も展示されています。複雑なコンセプトでしたがとても面白い作品に参加していただけて、時代の流れも現代のフェーズを表現することができたと思っています。

来年は未来を描いて行きたい

──今年から新たに取り組んだことや工夫などはありましたか?

豊川:今年は、昨年、展覧会に寄稿文をお寄せいただいた評論家で編集者の中川大地さん、そしてゲーム研究をされている尾鼻崇先生にも大いにご協力をいただきました。『現代ゲーム全史』の著者でもある中川大地さんにはコンセプトの構想段階からご相談をさせていただき、メンバーの考えを展覧会にうまく落とし込んでいただきました。

さらに今年から中川さんにコーナーごとに解説を書いていただいています。去年までは見る人の想像に任せる状態だったので、展示の意図をよりお伝えできているのではと思います。立命館大学の先生で、『アクアノートの休日』などのアートを感じるゲーム作品を作られている飯田和敏さんにも初年度の展示からご協力をいただいているのですが、今年の展示について「いいねえ!」と言っていただけて……ああ、やってよかったなと思いました。

皆さんに助けていただき、この期間はバタバタしてしまうのでホテルのスタッフにもたくさんサポートしてもらっていて、とても恵まれている展示会だと感じています。来年は未来を空想するような展示会にしたいなと思っています。

展示横には中川大地氏による解説が。かわいらしいピクセルアートは『From_.』のnakajima氏により描かれた本展示用のオリジナル作品!

ゲームクリエイターにいっぱい泊まりに来てもらいたい

豊川:『BitSummit』の村上さんともずっとお話ししていたことなのですが、今年は初年度からずっと目指してきた、ゲームクリエイターの方々にいっぱい泊まりに来ていただく、ということが実現でき、とても嬉しいです。初年度は一部の方だけでしたが、去年は50名を超える方々、今年は100名を超えるクリエイターの方々にご利用をいただき、本当に光栄に思っています。

──世界各国から集まったクリエイターさんたちがおもてなしに感動していた様子が分かりました。会場へのバスも出していただき移動もみなさん助かったと思います。

豊川:会場直通のバスを手配するのも今年で3年目なんです。バス会社の担当さんにもすごくお世話になっています。本当に皆さんに助けていただいて成り立っています。来年も続けていこうと思っているので、ぜひご利用いただけると嬉しいです。


筆者も今回初めてホテル アンテルーム 京都にお世話になったのですが、海外の人はもちろん、土地勘のない人間には、滞在先から会場までのバスが出ている事はとてもありがたく、ホテルでの展示や滞在時のおもてなしも含めて最高の『BitSummit』体験ができました。9月8日(金)にはアンテルーム京都で「Kyoto Indie Meetup」の思いを継いだ新たなミートアップイベント「KYOTO PLAYROOM」の開催も決まり、思いを現実にしゲームカルチャーを盛り上げ続ける豊川さんの行動力と情熱に感服です。筆者も来年の『BitSummit』とアンテルームでの滞在がもう楽しみです。

毎朝これを楽しみに起きたと言っても過言ではない、活力をもらったヘルシー朝食バイキングもご紹介しておきたい。『BitSummit』期間中のレストラン&バースペースでは、夜にはインディーゲームクリエイター限定の交流会も行われていました。未来の作品がここから生まれるかも!?

イベント概要

|art bit展|art bit - Contemporary Art & Indie Game Culture - #3
会期:2023年7月5日(水)~9月2日(土)
会場:ホテル アンテルーム 京都 GALLERY9.5入場料:無料

現代アートとインディーゲームの魅力に迫る展覧会「art bit」展について
https://www.uds-hotels.com/anteroom/kyoto/news/17075/

ギャラリートーク&レセプション
「アート&ゲームの最前線 ~BitSummitとart bit から考える2025への道筋~」
日時:2023年8月27日(日)19:00~20:30
会場:ホテル アンテルーム 京都1F
出演(予定):村上雅彦、石川武志、尾鼻崇、中川大地、豊川泰行

11年目に踏み出したBitSummit Let’ GO、およびart bit #3の運営の舞台裏とゲームカルチャーをめぐる最新動向を振り返りつつ、大阪万博2025を控えた関西の地でアートとゲームに何ができるのかを展望します。

展示ゲーム

Witch Beam Games 『Unpacking』https://store.steampowered.com/app/1135690/Unpacking/

ArkimA 『TopplePOP: Bungee Blockbusters』https://store.steampowered.com/app/1175770/TopplePOP_Bungee_Blockbusters/

Toyforming Studios 『トイフォーミング』https://www.toyforming.com/ja

State of Play 『Lumino City』『INKS』https://www.stateofplaygames.com/

Sad Owl Studios 『Viewfinder』https://store.steampowered.com/app/1382070/Viewfinder/

White Owls Inc. 『The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 』https://store.steampowered.com/app/842910/The_MISSING_JJ_Macfield_and_the_Island_of_Memories/?l=japanese&curator_clanid=32256332

Rusty Lake 『The Past Within』https://store.steampowered.com/app/1515210/The_Past_Within/?l=japanese

배상현 / Bae Sang Hyun 『What Will Be, Will Be』https://store.steampowered.com/app/1247110/Chasing_Light/?l=japanese

山根風馬 『Whale Fall』https://store.steampowered.com/app/2483030/Whale_Fall/

紹介作品

『アンリアルライフ』https://www.unreal-life.net/

『From_.』https://www.9th-planet.com/from

『UNDERTALE』https://undertale.jp/

アン・フェレロ『BranchingPaths』https://branchingpaths.jp/

クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』

ヨハン・ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』

中沢新一『ポケモンの神話学 新版 ポケットの中の野生』

中川大地『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』

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《アネモネ・モーニアン(アニモ)》

ボーカリスト アネモネ・モーニアン(アニモ)

"アニモ"の愛称で親しまれるボーカリスト。カナダで培ったグローバルな感性を駆使した歌唱・音楽制作を得意とする。 その多様性を尊重する精神、そして英語力、また、映像作品・ゲームに対する愛から、時にライター・通訳・翻訳家としても活動している。

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