「クラファンで本体完売」偉業達成の「X68000 Z」新情報続出!開発部長 VS X68ガチオタクの熱闘インタビュー、その結末は…… | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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「クラファンで本体完売」偉業達成の「X68000 Z」新情報続出!開発部長 VS X68ガチオタクの熱闘インタビュー、その結末は……

2022年の日本のゲームシーンで注目を集めたひとつが「X68000Z」でした。「X68000」は1987年にシャープから販売され、35年後の今も熱狂的なユーザーがいるパーソナルワークステーションで、ホビーPCで、ゲーミングPCの元祖的存在です。

連載・特集 インタビュー
試遊したグラディウスは、当時にX68000の思い出どおりのものだった。
  • 試遊したグラディウスは、当時にX68000の思い出どおりのものだった。
  • えくしび氏と編集部の遠慮無い発言に丁寧に応えてくれた米内氏。
  • X68000 Zの背後の緑の端子はUART端子というシリアルポート。(提供:えくしび氏)
  • 「思い出」としての価値を重視して、キャリングハンドルやLEDまで細部までこだわり
  • X68000 Z起動直後の、Human68K(OS)の画面。
  • 付属のグラディウスを皮切りに、懐かしいゲームをSDカードで供給していくべく準備中とのこと。
  • X68000 Zは、単なるゲームマシンではなく多くのクリエイターを育てたパーソナル・ワークステーションの後継にしたい、という思いがある。
  • 開発中のキーボード。コストと汎用性を鑑みながらオリジナルを再現すべく工夫しているという。

2022年の日本のゲームシーンで注目を集めたひとつが「X68000 Z」でした。「X68000」は1987年にシャープから販売された、35年後の今も熱狂的なユーザーがいるパーソナルワークステーションで、ホビーPC、つまり今でいうゲーミングPCの元祖的存在です。

その本体をミニチュアサイズにして、過去のゲームだけで無くOSその他も動く「パソコン」として販売しようとしたのが、「メガドライブ ミニ」「PCエンジン mini」など、ミニチュアゲーム機を多数開発してきた株式会社瑞起でした。

X68000 Zは従来のミニチュアゲーム機とは異なり、瑞起の自社商品として展開。2022年12月3日より「kibidango」のサイトでクラウドファンディングを開始。本体とキーボードとマウスのセットで税込み49,500円。目標額の3,300万円は即日突破し、2023年1月16日現在3億円を超えており、1月28日の期限に向けて伸び続けています。

今回、Game*Sparkは、X68000 Zの商品企画と開発を担当した、瑞起の執行役員商品企画部部長である米内雄樹氏に単独インタビューを行いました。

インタビュアーは、Discord上に作られたX68000ユーザーを中心としたコミュニティ「X68KBBS」を運営する「えくしび」氏。X68000の実機を6台も所有する強者です。

2人の熱いトークから、X68000 Zの開発秘話や今後の予定、そして未来の展望があふれ出しました。

◆X68000 Zの狙い

えくしび: メガドラミニとかゲーム機の場合は、購入するメリットがわかりやすいですよね。ゲームが50本入っていて、家でテレビに繋げばすぐ「懐かしいね」となる。それに対して、Zはゲームがたくさん入っているわけじゃないし、じゃあこれで「何かを開発するのか?」とか言われてもピンとこないし、これってどういう人達にどういう期待値で、どういうアピールをするものなのだろうかと。商品企画や開発をやっていく中で、途中で変わってきたこともあると思うのですけども、どういう人がどんな気持ちになる商品で考えていたのでしょうか。

米内: 企画スタート段階では、やはりこれまでのミニシリーズのようなゲームがたくさん入っていてすぐに楽しめる、おもちゃの延長のような製品を目指そうか、そんな方向感でした。
ただ、X68000ってゲーム機ではなく、やっぱりワークステーション、ホビーPCだというところが気にはなっていて。そこを意識しないといけないよね、という中で少しずつ方向性が変わっていき、ゲームショウのタイミングでファンの皆さんから「X68000ってこうあるべきだよね」という意見をいだだき、やっぱり「パソコンであるべき」ということになり、まずはそこをしっかり作りましょうと。

その先にやっぱり皆さんの話を聞いていると、ゲームの思い出が圧倒的に強い。最終的にはそこだなと思ったので、しっかりとX68000を再現しながら、もちろんディフォルメしているところはあるのですけれども、その先の展開としてはやっぱりゲームという思い出を追体験できるような部分を順次提供できるようにしていこう、という今のX68000 Zに至りました。

えくしび: 先日の「グラディウスが付きますよ」という発表もそういう流れであるわけですね。

米内: 思い出としての部分はそのまま再現してみたいな、なぞりたいなっていうのもあって、グラディウスはやっぱり最初からバンドルしたいという思いはありました。その先のゲームの展開を順次していくことを少しでも匂わせていきたいこともあって、同人ゲームではありますけれども、『超連射68K』というのをもう1本バンドルしながら、別のゲームメーカーさんにも参入いただけるようなプラットフォームに仕立てるという考えになっています。

えくしび: その後の展開は決まったのでしょうか。

米内: 未定ですが、今回多くのご支援をいただいているということもあるので、次の展開としては早い段階で追加のゲームを提供できるようにしていきたいです。当初よりロードマップで示しているようなブラックモデルなども、出せるタイミングを見計らっていきたいです。

◆X68000 Zのこだわり

えくしび: 改めてX68000 Zのこだわりポイントは何でしょう。グラディウスが入っているとかは分かりやすいのですが、当時買えなかった人が今ならこれができるみたいな。そういう人たちに刺さりそうな仕様はあったりするのでしょうか。

米内: 我々が得意とするのは、ハードウェアを設計して量産するっていうところと、あとメカの機構ですね。さらにソフトウエアの部分についてもエミュレーターを自社で開発しているのですけれども、これら3つの要素っていう部分については、過去の実績からして手前味噌ではありますけれど、かなりのレベルにあると思っています。これらを融合させて商品として世に出すっていうのは、実はこれ初めてになります。そういう意味では我々の技術力を分かっていただける人にはしっかり見ていただきたいなと思っています。

なので、オリジナルとサイズは違えども、さまざまなこだわりがあります。例えばキャリングハンドルの部分なのですが、これはメカの機構ですよね。フロッピードライブを模したSDカードの部分に、LEDランプも再現しています。キーボードもオリジナルでこれを新たに作ろうとすると結構な労力がかかるのですけど、ファンの皆さんがキーボードに対する思い入れを強くお持ちで、非常に特徴的なキーボードだということもあって、これも頑張って作ろうよとなりました。キータッチも含めていろいろこだわっています。キーボードのLEDももちろん再現しています。マウスはさらに時間がかかっていて、まだお見せできないのですが。

えくしび: こういう復刻マシンは「当時感を楽しみたい」というのがあると思いますが、一方でパソコンなのでただの置物ではない。当時感と実用性が相反するなと思います。でも実用性を突き詰めていったらハードウェアはいらなくなって「Windows用のエミュレータでいい」となっちゃう。むしろハードを開発することで、何かしら不便なことも発生する。キーボードがでかすぎて邪魔とか(笑)。そういう落としどころが一番悩ましいところなのでしょうね。

◆UART端子の意味

えくしび: この本体の裏側のUART端子は、あまり見かけないものですが、どういった用途を想定しているのでしょうか?

米内: これは、いわゆるシリアル通信ポートです。これを使う人は相当好きな人といいますか。今もX68000の実機をお持ちの方とか、あるいは何かしら開発してやろうっていうそれぐらいの思いを持たれている方が恐らく用いることになるかなと。

えくしび: 今はまだ具体的に何かに繋がるというわけではないのですね。

米内: はい。

◆ソフト資産はどうなるのか? どんなゲームが遊べるのか?

えくしび: 問題は過去のソフト資産ですよね。X68000 Zに付属していないけど、実機用に持っているソフトをこれでどうやって持ってくるか。そこはどうですか。

米内: 5インチのフロッピーディスクドライブは作りたいなと思って色々と考えたのですけど、今のところ作れそうにないので、我々としてできる事は何かというとSDカード。メーカーさんに交渉させていただいて、許諾をいただいたものをSDカードに入れて提供していきたいです。

えくしび: 今後出てくるゲームなどはSDカードに入れて売るんですね。

米内: そうです。オリジナルのパッケージを再現しながらなど。

えくしび: そうか。昔のゲームソフトっぽいイメージですね。じゃあ昔と同じようなマニュアルも入っていて、フロッピーディスクがSDに変わっているだけのような、任天堂DSのソフトみたいな感じですかね?

米内: そうですね。やはり苦労せずにゲームをやるだけでいうと、エミュレータでいいわけです。敢えてこれ(ハード)をやるとすると、やっぱりコレクターアイテムみたいな位置づけになる。まだ現状では「やりたいと思っている」というくらいですが。

それならばソフトもコレクションして楽しめるように、SDカードも当然パッケージもちゃんと小さくして皆さんも集めて楽しんでいただけるような状況にしていきたいなと。

えくしび: ヤバイですね。多分、そのパッケージソフトを並べたくて全買いするしかないという未来しか見えないというか。私の周りにいる100人くらいは、出た瞬間にノールックで買っちゃう。そのソフトのオリジナル版も持っていても買っちゃう。ヘタすると2、3本買う人がいそう(笑)

◆クラウドファンディングにした理由と目標金額

えくしび: 一人のユーザーとして聴きたいのは、最初からクラウドファンディングでやろうと思われたんですかということがあります。

米内: 最初はクラウドファンディングの予定はなかったんですけれども「どういう売り方をしようか」という中で選択肢っていくつかしかなくて、1つはAmazonのようなECモールで売るやり方。もう1つは、自社ECを新たに立ち上げてそちらで販売する。実績でいうと、Nintendo Switchのプラットフォーム向けに「電車でGO!」のコントローラーを自社製品として昨年販売したその実績もあったので、基本はAmazonでやろうかなと。

ただ、ゲームショウで展示をさせてもらって、皆さんからいただいた「非常に期待している」という声とか、「こういう風にした方がいいよ」というアイデアなど沢山いただく中で、「転売対策も意識して欲しい」というご意見もいただきました。単純にAmazonとかで売ると、たぶん転売屋が大勢出てきて、我々の知らぬところで凄く高額な値段で売られるとか、そういうことが起きるのだろうなと。

さらに検討を進める中で、「ユーザーの意見を取り入れながらモノ作りをしていきたい」という思いが我々の中で強くなってきて、転売対策とユーザーに寄り添うという2つの要素をかなえる最も親和性の高いチャネルとしてクラウドファンディングを選択しました。
そこでkibidangoさんを紹介いただき、非常に熱心にサポートいただけると感じたので今回お願いしました。

えくしび: 目標金額の3,300万円を大幅に超えていますが、それに対する社内的な反響や集まったお金の使い方のアイデアとかは出たのでしょうか?

米内: 私たちもここまでのユーザーからの反響をいただくとは予想していませんでした。一方で設定させていただいた3,300万円という目標金額については、遙かに超えないとビジネス的には正直に言って厳しい状況でして、最初から1億円を超えたいという思いはありました。それが数時間で超えてさらに今、2億8,000万円(インタビュー時点)というところまで来ていて、非常にありがたいです。

クラウドファンディングをやったことがない社員ばかりで、どういったものか知ることもできました。使い方次第では媒体といいますかマーケティングツールにもなるし、モノを売るチャネルにもなるという、いろいろな側面で有効なんだなという理解も深まりました。

えくしび: 私も個人的にデジタル系ガジェットやデバイスなど海外や国内のクラファンに参加したことがあるのですが、ここまで目標額を大きく超える例は珍しいのでは。しかも、まだ終わっていない。
そこに特別な何かがあったのか。タイミングがよかったとか。どうなのですかね。

米内: 先ほどの繰り返しなのです。私たちはやはり1億円っていう金額を設定したかったけれども、目標金額でいきなり1億円ですって言うとユーザーのみなさんも引いちゃうと思ったのです。そこはキビダンゴさんにいろいろアイデアをいただいて。届きそうな目標額でないと難しいということで最低限の金額で設定しました。

ここまでの反響をいただいたのはタイミングもあるかもしれないですけど、やはりX68000愛を秘められていた方々が想像よりもはるかに多かったっていうことでしょう。この人たちが、今第一線でかなりのレベルのクリエイターとして活躍されている方々が多いということもあって、横に広がるスピード感とか、そういうリテラシーも非常に高い人たちということもあって、一度火がつけば爆発する潜在的なものがあったのだと思います。

一方でX68000というのは難しいテーマだなとも、ユーザーの皆さんの声を伺いながら改めてこう思うところはありますね。

◆X68000 Zの未来に期待したいこと

えくしび: あとは、このX68000 Zならではプラスアルファみたいなものは考えていないのでしょうか。

米内: おそらくこの先の展開になってくると思うのですが、例えばですけど、X68030も含めて実現していたこと、していなかったことがあるかと思います。当時インターネット通信みたいなものを皆さんやられていたかと思うのですが、ネットワーク対応をしてみたいのはもちろん考えています(※かつて、X68000用のEthernetを搭載した同人ハードウェアの拡張ボードが存在した)。

X68000がそのまま終わらずに30年間シリーズを重ねていったらっていう、何か歴史のIF的なところをイメージしながら、あるいは当時のユーザーの皆さんの「タラレバ話」を聞きながら、何か実現できたらいいなと思うのですよね。

えくしび: あの当時って、みんなパソコンの性能アップを求めていて、その結果、今は普通のPCばかりになってしまった。WindowsもMacもみんな同じで、できることにそんなに差がない。X68000には、パソコンがまだ尖っていた時代の最後の象徴みたいなイメージもあるんですよね。

その当時のパソコンでやりたかったことって、ハードディスクやメモリを10倍のサイズにして欲しいとか、今から見るとしょうもない要望ばかりを言っていました。だから今なら今しかできないオリジナルの要素で、新しい何かを開発できないですかね。

MSX3の西和彦さんが「俺は新しいものを作りたいのだ」と言ってると話は聞こえてくる。X68000も過去からの延長線上じゃない、むしろ非連続に進化した「いまどきのX68000」みたいなのが、できたらいいなと。

米内: そうですね。本当におっしゃる通りで、先日、4Gamerの座談会で、「Oh! X」元編集長の植木さんや当時のライターの皆さんから「X68000の未来を何かしらの形でアウトプットして欲しい」という風に言われました。このままやると結局同じものにしかならないので。そのような応援のメッセージをいただいたので、我々としても単純なスペックアップとかだけではない形を模索していきたいなと。

えくしび: 当時、シャープから「X1」(エックスワン)というパソコンが出ていたのですが、後継機種のはずのX68000はX1とまったく互換性がなかった。ファミコンから見たスーパーファミコンみたいな位置付けというか。だからそこに新しいムーブメントが生まれた。

同じようにポストX68000、令和のX68000があるとしたら、それって何なのだろうなと。何か分からないのですけども、そういうのがあると、面白いのかなという思いはあります。

もちろん、今それを出しても誰も付いてこない。だからまずは当時のもののコピーでいいと思うんですけど。一方で、「もう誰もX68000なんか知らない」と思っていたのに、クラウドファンディングの参加者がこんなにいる。その中には今のパソコンに飽きて、新しいものが欲しいみたいな人もいるかもしれない。

米内: (考える)……そこはこれからですね。

◆公式コミュニティでソフト販売も?

えくしび: そういうユーザーの声を吸い上げるコミュニティとか、その辺はどういう風にしていきたいとかあるんですか。

米内: 今、実機を扱われている人達は、主にTwitterであるとか、あるいはBBSとか、そういったところで皆さんのコミュニティを確立されていると思うのですけど、X68000 Zを購入頂いた方に向けた専用のコミュニティサイトで、皆さんがやりたいこととか、欲しい機能とか、そういう声をいただける場所を我々としても設けていきたいなと思ってます。

例えば、ユーザーの方が新たにX68000 Z上で作られるのかは分かりませんけれど、何かしらのプログラムを作られたら、そういった場で公開した上で皆さんで共有するのか、あるいは販売みたいなことが将来的にあればなと。

えくしび: 個人が作ったものの販売はアプリの審査をどうするのかとか運営の問題はあると思いますが、そういう場があるのはワクワクしますね。

◆なぜ、X68000だったのか?

−− 今まではゲーム機だったわけじゃないですか。しかも任天堂やセガから発売していましたが、今回はそれとは全く違いますね。

米内: そうですね。これまでは「B to B to C」として、メーカーさんから受託して一定の数を納めていました。個人のユーザーには各メーカーの名前が表示される。我々は裏方に徹したやり方でした。

それがソフトやハードのノウハウを一定量蓄積できたということもあって、自社製品展開というのをやっていきたい思いが強くなり、色々なテーマを並べていった時に、このX68000というちょっと変わったテーマを選定してみよう、チャレンジしてみようよと、今回やらせていただきました。

−− 候補になったのは、社内にX68000ユーザーの方がいたのですか?

米内: そうですね。エンジニアでわりと年齢が高めの人がX68000オーナーとして当時使っていて、思い入れが凄くあって熱く説明を受けたというのがありました。

−− そこがスタート地点なのですね。

米内: 私自身は当時はX68000を触っていなかったですし、本当に理解が深まったのはここ数カ月のことです。でも、X68000を知っている社内の人間から凄く熱いプレゼンを受けるわけです。「これはもの凄いんや」ということをさんざん言われて、「実は権利がとにかく複雑でどうなのか分からないけどやってみよう」とスタートした結果、今日に至りました。許諾には苦労しましたけれども。

−− それでまず、シャープに話を持っていったわけですか。それにしても、シャープさんもよくこんな話を受けましたよね。

青井(kibidango): 突破口はTwitterの中の人だったのですか?

米内: そうです。Twitterの中の人繋がりで。ただ開発総責任者として有名だった鳥居勉さんも含めてX68000を知る人はシャープの中には誰もいません、という状況でした。

なので、「許諾を出せる可能性はほぼないでしょう」というのが最初の回答でした。

−− でもちゃんと道が開いたのですね。それは何故だったのでしょう。

米内: シャープの中のことは判らないのですが、タイミングが良かったというのはあったみたいです。シャープの中でもX68000を復活させたいという声はあったらしい。

それと知財を有効活用するという観点もあった。あとは実現の度合いの問題で「X68000を復活させることが、本当にできるのか?」というのは、やはり我々のミニゲーム機の過去の実績があって評価されたのではないかと思います。

ただ、権利の許諾を取るにしても、どこに問い合わせに行けばいいのか、結局分からないことがかなり多い。判らないのだけど、聞くだけ聞いてみようかみたいな。そういう精神というか突破力が大事でした。

X68000の商標利用よりも、一番苦労したのはOSの「Human68K」などシステムディスク関係ですね。ここは権利が複数社にまたがっているので、1個ずつクリアしていく必要があった。

えくしび: ハドソン(北海道にあったゲームソフト会社。Human68kをシャープと共同開発した)ももうないですしね。

米内: ハドソンは、いまはコナミになっていますし、今となっては当時を知る人間もいない。

今の契約書って電子化されるじゃないですか。当時は紙しかなくて、どうやって紙を探そうかとか。検索のやりようがない。「わかんないです、ごめんなさい」と言われるのを「まあまあ、そう言わんと」という感じで。

◆グラディウスの次は?

−− コナミのグラディウスについては、どうだったのですか?

米内: コナミさんは意外とウェルカムな感じでした。話をちゃんと聞いてくれて、「だったら、こういう条件でどうですか」という感じで、わりとスムーズに話を進められました。

−− もしかしたら今後、さらなるコナミタイトルがあるかも、と思っていいですか?

米内: そこは、期待していただいていいです。「何が出せます」とは。ちょっとまだ言えませんけれども、交渉はもちろんしていますし、出せるようにしていきます。

−− そして、名前は出せないと思いますけれども、コナミさん以外も大手デベロッパーさんには交渉していると思いますがいかがですか。

米内: ちゃんと期待に応えられるようにしていこうと交渉しています。(以後、オフレコで有名メーカーとタイトルの話)

それから「超連射68k」のように、個人で作られているけどユーザーが思い入れのあるタイトルについても、個別に交渉はしていきたいなとは思っています。

◆どんな人達がクラファンに参加したか?

−− クラウドファンディングで実際にお金を投じてくれた人たちは、具体的にどんな人達かわかりますか?

米内: 40代後半から50代の完全に当時の方々がボリュームゾーンですね。一部に20代10代っていう方もいらっしゃって。

今後はそういう若い人たちに触れてもらえるものにしていきたいと思うのです。今回、我々がX68000をテーマとして選んだのは、実機がどんどん無くなっていくというのがあります。ある日突然電源が入らなくなる。

自分で修理できる職人めいた方もいらっしゃいますけど、でも限界はあるじゃないですか。これで育った人達が今トップクリエイターで活躍されていて、凄く思い出はあるけど無くなっていく。これは文化が途絶える瞬間だと思うのですよね。

だからそれを途絶えさせないためにも、我々はテーマとしてこれ選定をした。

同じことを小さくなったX68000 Zでちゃんと体験していただき、それを若い世代に継承していく。そういう道を描ければなとは思うのです。だから若い人に触ってもらうには何が必要か? ネットワーク的な話なのか、あるいはもっと簡単にプログラミングが学べる環境なのか。例えば算数嫌いがなくなりますとか言って、子供に触ってもらえるようにするとかもあるかもしれません。

お爺ちゃんとか親世代が子供に対しても「お父さんはこれでプログラミングを学んだんだぞ」みたいなことを、X68000 Zを使って子供にも伝えられる。それを口実にお父さんが買えるように(笑)

えくしび: 昔使った手ですね。「勉強にも使えるからパソコン買ってよ」と親に言う。誰でも1回は通る道ですよね。そして、99%が勉強しないでゲームをしていた(笑)

米内: そうですね。今度はお父さんが欲しいから子供をダシに買うという新しいパターンで。あとは個別でメールが来るのは「コイツ(X68000)に私は育てられて。この会社ができあがった」という創業者みたいな人がけっこういる。それを自分の従業員に教えたいから応援したいよと。

えくしび: それ面白いですね。会社に1台置いておいて、「これなんですか?」「これがあってこの会社が生まれたんだ」みたいな。

青井: 僕ですら熱いメッセージを貰いますからね。この件と全然関係ない取引先の50代くらいのプログラマの人が「青井くんアレやってるね。僕はめちゃめちゃユーザーだったよ」とか。そのときはまだ判っていなくて、ちゃんと返せなかったんですが。

◆なぜいま、X68000に5万円も出すのか?

青井: でも、これちょっと異常な光景が起きていますよね。ここにいるみなさんは、X68000が何か判っているから、3億円行くと言っても「そうなんだ」っていうぐらいですけど、普通の人はそうじゃない。

クラウドファンディングはいまどき珍しくないですけど、ほとんどの案件は“凄く便利そうな新しい何か”のプロジェクトじゃないですか。ところがX68000 Zは、若い人たちには全く分からないと思うんですよ。何が起こっているんだろう?みたいな。

えくしび: 何ができるかわからない。「グラディウスが付くと言われてもわからない」とか、「グラディウスはファミコンでいいじゃん」とか。

青井: せっかく、えくしび さんがいるから、「何が起こったか」を現役ユーザー視点でその熱さを解説しておいて欲しいなとは思います。

えくしび: パソコンってオフィスにあって仕事に使うもので、あまり面白くない感じだった。そこに急に派手なパソコンが出てきたのがX68000だった。
(※1977年のAppleIIの登場から約10年経って、当初は各社から個性的なパソコンが続々と発売されていったが、国内では1985年くらいからNECのPC-9801の1強体制が明らかになり、1986年のエプソンのPC-98互換機の発売がその傾向に拍車をかけた。そんな8bitパソコンから16bitパソコンへの転換期の1987年に現れたのがX68000だった)

えくしび: グラディウスっていうのは当時のゲーセンにある大人気ゲームで、そのゲームが家で遊べるなんていうのは夢みたいな感じだった。凄いのは付属ゲームだけじゃなくてスプライトが128個も使えるとか、FM音源が8音鳴るとか、ADPCMも使えるとか、オートイジェクトのFDDが2基もついているとか、メモリーも1MB搭載していますとか、とにかく最初から豪勢な仕様だった。

でも、値段が36万9000円。専用モニターも買うと50万円とかになっちゃうから、とても親に頼んで買ってもらえる金額ではなかった。「中学生でこんなもの欲しがって、頭おかしいんじゃないか」って。あのとき欲しくて買えなくて泣いたパソコンが5万円で買える、みたいのはあるんですよね。

青井: 昔買えなかったものを、今俺は大人になって買えるぞって感じなんだ。

えくしび: その時に消化不良で終わった思い出、達成できなかったこと、ずっと心にあった欲求不満が、今クリアになるというか解決するというのはある。

青井: だから5万円って、まあまあの金額だけれども、何なら5万円でも安いみたいな感じですかね。

えくしび: 中学、高校生の時の50万円と、大人になってからも5万円は全然世界が違って、10分の1とかそういう次元ではない。

−− 本当にここに未来と浪漫があったんですよ。

青井: それが手に入る。

えくしび: そう。でも手に入れて何かに使えるかとかいうと、また話が変わってくるんです。

例えば中学生の女子だと、凄いブランド物とか超高いコスメとかあると欲しいけど買えないじゃないですか。それがもし手に入れば、もうキラキラになって凄くおしゃれして、格好いい彼氏と付き合えるかもしれない。だから欲しい。でも買えない。

それが今、大人になって文字通り“大人買い”とかできちゃうみたいなイメージ。あのとき買えなかったモノが今は自由に働いて買えるみたいな。でも買ったからってかっこいい彼氏と付き合えるかどうかは別の話です(笑)。

なのでX68000で凄いモノがクリエイションできるかどうかは別の話なんですけど、まずゲットしないとそこに参加できない。

青井: まずはその同じ土俵に上がるってことなんですね。

えくしび: でも、昔は子供だったから手に入らない。田舎だからパソコンショップもない。秋葉原もどこにあるか分からない。パソコンサンデーというテレビ番組に流れるX68000を眺めてるしかありませんでした。

◆キーボードとマウス、その次は?

−− 大人なら5万円くらいだったら、思い出を買うにはちょうど良いお値段ですよね。

えくしび: 身もふたもないですが5万円の内訳は本体2万円、キーボード2万円、マウス1万円くらいのイメージです。だとすると納得しやすい。特にキーボードはけっこう凝っていて、しかも今回はUSB接続で汎用性がある。

青井: キーボードは英語のコメントで、めっちゃディスられてましたね。「なんでこんな高いねん、キーボードが」と。で、別の人が英語で「金型代が大変やで」と説明してくれていた。

えくしび: でも、オークションで中古のボロボロの実機のキーボードが2万円ぐらいするんですよ。マウスも中古が1万円ぐらいする。それが今回は新品なんですよ! しかもWindowsでも使える。って、なんで俺は頑張って宣伝してるんすかね?(笑)

青井: いやいや。ありがとうございます(笑)

えくしび: でも、なぜ本体のみの販売はなかったのかなとは思います。人によっては、「俺はUSBのキーボードとマウスを持ってるから、本体だけ安く売ってくれ」っていうのもあるかなと思ったんです。でも、本体だけでは“思い出力”が足りないので、キーボードとマウスのセットで初めて商品として成立するのかな? でも、そうすると何故キーボードとマウスに別売りがあるのかなと。

米内: キーボードとマウスは別売りもして欲しいという要望があったのです。使ってるとヘタるので予備として欲しいと。

−−: 本体は回転部分とかないから、ヘタるリスクは低いですもんね。

えくしび: ハードについては、MIDIインターフェイスボードやMIDI音源もあるといいですね。X68000は当時ゲームプログラミングやCGに加えてDTMマシンとしてよく使われてました。ゲームでも出たなツインビー、グラディウスII、悪魔城ドラキュラとかMIDI音源に対応してるので、そこまで再現できたら嬉しいです。

《根岸智幸》

編集者、ライター、ソフトウェアエンジニア、メディアビジネス企画開発 根岸智幸

ITと出版とオタクの何でも屋。グルメや女性誌や芸能やBLマンガもやりました。キャンギャルやコンパニオンの写真も撮ったりします。
・インターネットアスキー編集長(1997-1999)
・アスキーPC Explorer編集長(2002-2004)
・東京グルメ/ライブドアグルメ企画開発運営(2000-2008)
・本が好き!企画開発運営(2008-2013)
・BWインディーズ企画運営(2015-2017)
・Webメディア運営&グロース(2017-)
著書
・Twitter使いこなし術(2010)
・facebook使いこなし術(2011)
・ほんの1秒もムダなく片づく情報整理術の教科書(2015)
など

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