古典的DRPGの再生
古典的な方向性を突き詰め、高い完成度を持つに至ったDRPGもあります。
エルミナージュORIGINAL ~闇の巫女と神々の指輪~
(2022年12月現在、Steam配信は英語のみ)
開発:スターフィッシュ・エスディ/メビウス
販売:D3パブリッシャー (Steam)
発売年:2017
「奇跡」とまで称された自由度の高いウィザードリィライクRPG
『エルミナージュ』は2008年にPS2で発売されたゲームで、その後多種多様なプラットフォームに移植されました。本作『エルミナージュORIGINAL』は、第1作のリマスター版として発売されたものになります。
6人の冒険者を訓練場で作成して酒場でパーティを組み、ダンジョンに潜るという基本的なゲーム進行やアーマークラスと呪文の使用回数といった仕組みは『ウィザードリィ』の旧作を踏襲しており、初期の『ウィザードリィ』を遊んだことがあれば特に困ることなくゲームを進行することができるでしょう。
しかし『エルミナージュ』を特徴付けているのは、その圧倒的な自由度の高さ。
チュートリアルのダンジョンをクリアした後は、数多く存在するダンジョンを自由に攻略できます。やろうと思えば序盤から強敵のいるダンジョンに足を踏み入れて、全滅覚悟でハイリスク・ハイリターンな環境を用いてのキャラクター育成も可能です。
プレイヤーの目標となるのは「魔王の復活を阻止するために神の加護が封じられた6つの指輪を探す」事であり、それに挑むまでの道のりはダンジョンの攻略順と同様に自由です。指輪を探すために必要な「フェイム」を得るためのサブクエストも無数にあり、それをどうこなしていくかもプレイヤーに委ねられています。
また『ウィザードリィ』に無い要素として、「ハイマスター」という概念が追加されています。これは高レベルキャラクターは職業ごとに独自のスキルを覚えるというもので、例えば盗賊ならLv26に到達すると敵の装備解除と、敵の所持品の盗取が可能になります。敵「ピクニッカー」はレア素材を多数所持しており、ハイマスターとなった盗賊の格好のターゲットになります。得たレア素材は高レベル錬金術師の「高純度錬成」で装備の強化に使うなり、素材同士の合成で便利なアイテムを作成するなり使い道は多数あります。
他にも「呪文の名称を自由に決め直すことができる」「キャラクターの顔グラフィックやBGMに好きな画像や音楽を設定できる」など自由度の高い要素が満載です。この自由度と全体的な完成度の高さから「開発メーカーの奇跡」とまで言われ、かの「ウメハラ」ことプロゲーマー・梅原大吾氏にも好きなRPGと言わしめた(ガジェット通信誌インタビューより)本作。おススメです。
ウィザードリィ外伝 五つの試練
開発:59 Studio
販売:Game*Spark Publishing
発売年:2021
古きを未来へ繋ぐウィザードリィ
16年前、古典的な『ウィザードリィ』が大好きな人たちがいました。
彼らはそれより前に、数多くの作品を作り上げていましたが、さらに重大な決断を下します。「本当にシリーズが好きな人たちのために、シナリオエディターが使える『ウィザードリィ』を公開しよう!」
こうして、『ウィザードリィ外伝 五つの試練』の2006年度版は世に出ました。
今ほどPCゲームの販売が便利ではない時代でしたが、当時、日本中の『ウィザードリィ』を心から愛する人たちがこのゲームを買い求めました。
そして多くのユーザーが自分の理想の『ウィザードリィ』を追求し、16年の間に100本を超える『ウィザードリィ』の新シナリオが投稿されました。
時は経ち……Steamの普及などでPCゲームの販売が便利になる一方で、『五つの試練』を購入できる場所は日に日に減っていきました。
こうした事態を前に、『五つの試練』の制作陣やパブリッシャーも、このまま『ウィザードリィ』を終わらせやしないぞ!と、機能拡張・改善・新OS対応を繰り返してきました。こうした多くの人々の愛と努力が実り、Steamで装いを新たにした『ウィザードリィ外伝 五つの試練』の配信に繋がったわけです。
現時点では早期アクセス配信であり、Steam版に対応したシナリオエディターは未配信ですが、それでも公式シナリオの英語対応やポートレート読み込み機能対応など、2006年版から考えても大きな改善は繰り返し続いています。
筆者としては将来新シナリオエディターが公開された際には、Steam版で新たに触れたユーザーや英語圏のユーザーが作ったシナリオも楽しんでみたいものです。
本記事冒頭の『ウィザードリィ』に登場してもらったスパくんは、本作のSteam版で実装されたポートレート読み込み機能によって実現したものです。本作のルールや大まかなゲームの進行フローは基本的には『ウィザードリィ外伝』の名前が示すように古い作りで、回復魔法の弱さなどに古臭さを感じる方も少なくないとは思います。
ですが、こうしたポートレート読み込み機能を使って、自分だけのスペシャルパーティを作って迷宮に挑んでみるのは楽しいものでしょう。
また、手前味噌ながら筆者は本作のポートレート作成支援ツールを公開しています。こちらを使って頂けるとポートレート作成の手間が大きく省けるかと思います。2022年夏のアップデートで変更されたポートレートの保存位置へも対応しています。
なお、本作で『ウィザードリィ』を初めて遊ばれるという方には、公式シナリオなら『灼熱の車輪』、ユーザーシナリオなら『悪夢の動物園』を個人的におススメしておきます。
Jettatura
開発:Nick Baker
販売:Kyoto Cybernetics
発売年:2022
シビアなウィザードリィライクは海外にも存在する
古典的な『ウィザードリィ』に影響を受けた人々は日本だけにとどまりません。海外にもその影響を受け、リスペクト作品を作成した人々がいます。イタリア語で「魔眼」を意味する『Jettatura』も、そんな作品の1つです。
6人パーティを組んでダンジョンに潜る。独特の呪文名を唱えて敵を攻撃する。戦闘後に出てきた宝箱の罠を調べ、罠を解除して開けて新たなアイテムを得る。そういった『ウィザードリィ』の要素を、『Jettatura』はほぼ踏襲しています。
宿屋の馬小屋が宿泊無料な点まで『ウィザードリィ』ですが、本作の特徴として、近年の便利化するDRPGとは異なり、あえて80年代の不便な時代に遡ったような方向性を取っています。
顕著な例を挙げると、本作にはオートマッピングは標準では搭載されておらず(起動オプションでオートマッピングを表示可能にする設定はあるが、マップを表示するにはLv3魔法が必要と使えるようになるのが遅く、しかもそのマップには自分の位置から遠い場所は正確に表示されるとは限らないという仕様)、方眼紙を使って手動でマッピングしろ……という製作者の力強い漢気のようなものを感じました。近年のDRPGは『五つの試練』ですらまだヌルい、80年代のあの日に帰ったかのようなシビアなコンピュータRPGが遊びたい!という方におススメします。