2022年12月23日(金)に生誕25周年を迎えた、唯一無二の「ドライビング&カーライフシミュレーター」。全世界で累計8,040万本以上を売り上げた、それが『グランツーリスモ』シリーズです。
ですが、本作を手掛けるポリフォニー・デジタル社内についての取材は、スタジオ移転後ずっと行われていませんでした。しかし、今回25周年のタイミングでメディアツアーイベントが実施され、ついにスタジオ内へとメディアが初潜入できる見学ツアーも入っているとなれば行かない理由はありません。
というわけで、『グランツーリスモ』25周年記念のメディアツアーイベントの詳細レポートを皆様にお届けします。ポリフォニー・デジタルの社内、それはレースゲームを遊ぶ者にとってはまさに聖地であり、夢の様な空間が広がっていました。
ここがまさに『グランツーリスモ』の聖地
さて、スタジオ・ツアーの最初は『グランツーリスモ』、そしてポリフォニー・デジタルを生み出した山内一典氏による『グランツーリスモ』25周年の歩みについてのプレゼンテーションでした。ここで我々は山内氏直々に『グランツーリスモ』がどの様に作られているのかをコース・車・サウンドの面からそれぞれ事細かに説明して頂きました。『グランツーリスモ』は「美しさ」の追求を大切にしている、と語る氏の言葉の通り、シリーズを追うごとに画像も音もプレイヤーを感嘆させる美しさが洗練されていく様子を肌で実感することが出来ました。
プレゼンテーションの後は、いよいよスタジオ・ツアーの開始です。まず最初に案内されたのはプレゼンテーションを実施したイベントホール内にあるバーカウンター。壁にはニュルブルクリンクのノルドシェライフェ(北コース)が電飾であしらっており、さらにこれまでの「グランツーリスモ ワールドシリーズ」の優勝者の名前も立てかけられていました。
コロナ前であればここでは毎週金曜日に仕事が終わったスタッフがふらりと立ち寄り、飲み会が自然と発生するほどだったとのことでした。またバーカウンターの裏には機材が置いてあり、いつでも音楽やイベントが開催出来るようになっています。実際、コロナ前の年末などではDJを呼んでの大々的なパーティも行われていたそう。
次に紹介されたのはロッカールーム。ここにも『グランツーリスモ』らしいちょっとした仕掛けが。ロッカーにはそれぞれ今までのグランツーリスモに実装されたコースのレイアウトと名前が貼られていました。これは何処に自分の荷物を預けたかわかりやすくする為の仕組みだそう。確かに『グランツーリスモ』をプレイしているファンや、きっとファンたちと同様の熱意を持つであろう同社の方々であれば覚えやすい良い仕掛けだなと思いました。
その次に紹介されたのはなんとサウンドルーム。ここで実際に『グランツーリスモ』の音の編集を行っていくそう。デモンストレーションとして「ビジョン グランツーリスモ フェラーリ」を実際に走らせてのサウンドチェックの様子を見せて頂きました。車1台にそれぞれの方向性を持たせた架空のマイクが何個もセットされており、それぞれどんな感じで音が出るのかを人の耳でチェックしていきます。こういった地道な確認によって立体的で迫力のあるエンジン音や駆動音が聞こえてくるのだと感心することしきりです。
さらにサウンドルームの隣は喫煙スペースですが、ここにはピアノが置かれています。またモニターには常に神戸のスタジオの一室が映し出されていました。休憩中にお互いのスタジオにいるスタッフが軽く談笑したり確認事項を伝え合ったりしているそうです。休みの時には楽器を持ち出して遠隔でのセッションをやったりもしているとのこと。山内氏も『グランツーリスモ7』での氏お気に入りの楽曲であり、オープニングムービーでも使われている「ノクターン」を弾いたりしているそうです。
さて、いよいよ制作スタジオの中に入る…その出入り口に1つのヘルメットが置かれています。それはなんと不慮の事故で亡くなってしまった、F1レーサーの「伝説」アイルトン・セナが実際に使用していたヘルメットです。山内氏曰くアイルトン・セナ財団から寄付して頂いたとのこと。筆者は子供の頃テレビで見たアイルトン・セナのレースが車やレースへの原体験であり、このヘルメットには涙が出そうになるくらい感情を揺さぶられました。
他にもいくつものヘルメットが置かれており、改めて『グランツーリスモ』シリーズが色んなレーサーにリスペクトされているということを肌で実感していました。
ひどく名残惜しいですが気分を切り替えて、次はスタジオ内へ。スタジオ内はほぼ写真撮影NGでしたが、非常に広々とした様子で沢山の機材が置かれていました。また、昨今気になるだろうスタッフの出社率ですが半数ほどという様子でした。スタジオの中心には『グランツーリスモ7』の開発状況やネットワーク状況が事細かにデータ化され表示されている場所もありました。非常にデータの数が多く一目で何がどの様なステータスなのかは理解できませんでしたが、この細かいデータを逐一分析しているからこそ圧倒的なリアル感を出せているのかな、ともまた思いました。
スタジオの中を歩いていくと、定期的に休憩スペースを見かけました。その中の1つに、『ARCADE1UP アウトラン』の筐体を発見。そういう点はレースゲームを作っている会社ならではの特徴だなと思ったりしますね。また、スタジオ内には会議室が大小いくつもありました。会議室自体はそこまで物珍しいものではありませんが、モニターが大量に置かれている場所もあったりとさすがの設備だなと感心していました。
しかし、その中でも一際異彩を放つスペースがありました。それが和室の休憩スペース。掘りごたつ式で、とてもゲーム製作スタジオ内にあるスペースとは思えません。しかもスタッフの中にはお茶を点てられる人がいて、実際に和服を着てお茶を味わうイベントもあったりするとのこと。ポリフォニー・デジタルのスタッフは家族だと山内氏は口にしていましたが、色んな特徴を持ったスタッフがいるのだと筆者は感じていました。
次に案内されたのはトレーニングルーム。ゲーム開発は身体が資本であり、また昨今のコロナ情勢もあり会社内で運動できるスペースを用意しているのは流石ポリフォニー・デジタルと言ったところ。山内氏も週に2回程度はここでトレーニングを実施しているようです。さらにここ最近、一部のスタッフの中でボルダリングがブームということで、簡易的な体験設備も存在していました。
山内氏は150kgの重りが置かれたパネルを脚で押すトレーニングを我々に実際に披露してくれました。スポーツカーなどを運転する必要がある時は、ブレーキを踏むだけでも強大な力が必要になるそうで、このトレーニングルームで身体を作ってから取材などに向かうとのことでした。30年近く『グランツーリスモ』を開発し続けられる体力はこういったトレーニングを行っているのも要因の1つであることを実感しました。
その次はライブラリルーム。ここは今まで開発の参考にした資料が置かれている部屋ですね。やはり目立つのは大量の模型です。今でこそ実車をレーザースキャンなどでデータを取り、ゲーム内の車へと落とし込んでいく形ですが、元祖『グランツーリスモ』の制作時にはこういった模型も参考にしていたそう。また参考としたゲームも非常に豊富でした。やはりレースゲームは多く置かれていましたが、それ以外のジャンルのゲームも数多くライブラリとして保管されていたのには注目でしょう。
また、ライブラリルームにはデッサン用の人形も置かれていました。山内氏いわく、たまに遊びと題してデッサン大会も行われているそうです。イラスト担当のスタッフは勿論のことですが、プログラマの人でもかなり上手く絵を描ける人が多いらしく、鋭い観察眼をそうして養っているのかも知れません。
最後に紹介されたエリアは撮影ルーム。メディア向けの撮影だけでなくブルーバックが必要な撮影シーンもここで行われているとのこと。数々の名シーンなどがこの場で撮影されていくと思うと、これはこれで滾るものがありますね。
体験コーナーにもサプライズが
ツアーも一通り終わり、イベントスペースでは実際に『グランツーリスモ7』を特別な環境のもとハンドルコントローラーで体験できるコーナーがあったので筆者も体験することにしました。今回のツアーの為に用意された席数は10を超えており、非常に壮大な光景が広がっていました。
それに加え、何よりも目立ったのが中心に置かれているトロフィー。これは「グランツーリスモ ワールドシリーズ」の優勝者に渡される優勝トロフィーで、今回のツアーの為に特別に展示したとのことです。偉大なトロフィーをこの目で見ることができて筆者は非常に感激でした。
なお、今回の『グランツーリスモ7』体験では全ての車・全てのコースが解禁されていました。もともとこの取材に来る程度には『グランツーリスモ7』を遊んでいる筆者は「グランツーリスモ 25 周年記念・ワールドファイナル モナコ 体験イベント」をハンドルコントローラーで遊んでみることにしました。この体験イベントは名前の通り「グランツーリスモ ワールドシリーズ 2022」を題材としたレースイベントということもあり、難易度は激ムズ。遊んでいるとは言ったもののコントローラーがメインの筆者には、慣れていないハンドルコントローラーで車を操作するのは難しく全く歯が立ちませんでした。
それでも実際にハンドルを握り、しかもそれがポリフォニー・デジタル社の中という貴重な体験は凄く心踊る時間でした。正直、この空間であと6時間くらいずっとレースをしていたいと思うくらいには楽しかったです。……実のところ取材やインタビューが終わった後も閉館ギリギリまで遊んでしまいました。
ここが「家族」の居場所
以上、ポリフォニー・デジタルのメディアツアーのレポートでした。こうして開発現場を色々見回った中で感じたことは「スタッフ同士が何かの活動を行うためのスペースが非常に多い」ということでした。ちょっとしたタイミングで集まり何かをしたり話をする。そんな場所が色んなところにあるので、自然とスタッフの距離が近くなり仕事もしやすいのかなと感じました。山内氏は「ポリフォニー・デジタルは1つの家族である」と口にしていましたが、この新たなスタジオはその体現であるのだろうと、そう筆者は思います。