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Nexon代表取締役社長オーウェン氏にインタビュー。「メタバース」の隆盛に鋭い指摘…そのキーワードに求める“定義”とは【G-STAR 2022】

Nexon代表取締役社長オーウェン・マホニー氏への独占インタビューを2回に分けて実施。後編ではビジネス面のトピックから、昨今の「メタバース」の隆盛に向けたお話まで訊きました。

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Nexon代表取締役社長オーウェン氏にインタビュー。「メタバース」の隆盛に鋭い指摘…そのキーワードに求める“定義”とは【G-STAR 2022】
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11月17日から11月20日まで、韓国・釜山のコンベンションセンターBEXCOで韓国最大級のゲームショウ「G-STAR 2022」が開催されました。

本記事では前編に引き続き、Nexon代表取締役社長のオーウェン・マホニー氏に独占インタビューした様子をお届け。後編ではNexonのビジネスサイドのお話に加え、近年のゲーム業界を賑わす「メタバース」についても見解を伺いました。

オーウェン・マホニー
株式会社Nexon 代表取締役社長

ポイントキャスト、クラリス日本法人、ラディウスなど、米国及びアジアのIT・ソフトウェア企業において上級職を歴任後、2000年から2009年までエレクトロニック・アーツ・インクにて企業買収及び事業開発の責任者としてシニア・ヴァイスプレジデントを務め、M&Aや投資に従事。

2010年に株式会社ネクソンに入社。2010年から2014年まで最高財務責任者及び管理本部長を務め、2011年には東京証券取引所市場第一部への上場、そして世界有数のゲーム会社との戦略的業務提携を率いた。

2014年より代表取締役社長に就任。


――2022年現在における、ネクソンの立ち位置や経営状況についてお聞かせください。

オーウェン・マホニー氏(以下、オーウェン)第3四半期の決算報告で発表した第4四半期の業績予想をベースとすると、通期での成長率は約20%となります。第4四半期のみの成長見込みは30%から50%ほどと好調です。『FIFA ONLINE 4』など継続的に成長しているIPや今後リリース予定のパイプラインにも、強く期待しています。

――「G-STAR 2022」でのNexon出展タイトルは、韓国のどのようなゲームユーザーをターゲットとしているのでしょうか。特にプラットフォーム展開については、どのような意識を持たれていますか。

オーウェン根本的には、PC/モバイル/CSの差別化は不要になっていくと考えています。いま我々が使っているスマートフォンは、だいたい5年か6年前のPCほどのスペックを持ち合わせていますよね。GPUだけ見ても、数年前のPCと同じ程のスペックですし、ネットワークにおいても同様のことが言えます。PCであってもモバイルであっても、操作性以外に大きな違いはありません。

例えば、私は個人的に「マウス+キーボード操作」を好みますが、私と同じくゲームが大好きな息子は「モバイル端末でのタッチ操作」も楽しんでいます。私たちはどのような端末であっても操作できるという前提でゲームを開発しているので、特定のプラットフォームに向けて注力するという戦略はとっていません。また、ジャンルにおいても「コアなファンタジー作品ファン向け」「ミリタリー系シューターファン向け」とターゲットを絞らず、多くのユーザーが楽しめるものを狙っています。

――韓国のゲームユーザーは幼少期からPCゲームに触れられていて、携帯機や家庭用ゲーム機でゲームを覚える日本とは、文化としての触れ方が大きく異なります。日本と韓国の間にあるこのギャップには、どのようなアプローチで切り込めると考えられていますか。

オーウェン先ほどお話したように、日本のゲーム市場は大きく動いていくかと思います。『フォートナイト』『マインクラフト』の大ヒットもありましたし、日本でもPCゲームが普及している影響を強く感じています。とは言え、Nexonとしての目線でお話すると、先ほどのようにモバイル/コンソール/PCと区切る必要はないと考えていて、すべてのプラットフォームを対象としています。

また、私の経験上では、日本の市場は「ガラパゴス」から「インターナショナル」に大きく幅を広げるケースが多かったと感じてます。私は大学院を卒業したあとAppleグループ会社のクラリスに勤めていたのですが、当時はNECのマシンを使うPCユーザーが60%を占めていました。Appleは当時、約1年半でシェアを大きく伸ばし、20%もユーザー数を高めていたのです。携帯電話で言えば、1996年ごろにはNTTドコモが大きく成長しましたし、iPhoneが発売されるまでは市場を席巻していましたよね。

また、InstagramやTikTokなどに触れて親しんできたユーザーが増えてくれば、同じくオンライン体験を提供するゲームタイトルが強い力を発揮したり、成功のチャンスを掴めると考えます。

――昨今では、ゲーム業界の内外で「メタバース」を意識した取り組みが目立っています。ネクソンとして、この隆盛にどのような印象を感じていますか。

オーウェンメタバースは、語ることが非常に難しいトピックです。あなたにとって「メタバース」の定義とは、どのようなものですか?

――実のところ、私には「メタバース」をうまく説明できる自信がありません。このインタビューを実施するより前に、オーウェンさんがMediumで公開していた「バーチャルワールドとは?そして、誰がバーチャルワールドを創り上げるのか」を読ませていただいて、たしかに昨今のメタバースブームには「ユーザー目線での言葉が足りていない」と感じていました。

オーウェン実は、社内では「メタバース」という言葉を使わないようにしています。それでも、投資家やアナリストからはこういった質問を投げかけられるのです。「オーウェンさん、最近“メタバース”が話題ですよね?御社ではどのような“メタバース”の戦略を用意されていますか?」。

そう問われたときは、いつも「私たちに“メタバース”の戦略はありません」と答えているのです。私はよくオンラインゲームを遊びますし、そもそも子どもの頃から40年以上ゲームに触れてきています。仮想空間をテーマにしたSF作品も、個人的に大好きです。でも、はっきり言って私も「メタバース」という言葉を定義できていないのです。

昨今言われている「メタバース」は、体験ではなくキーワードのみが重要視されています。特に投資家が好んでこの話題を取り上げることが多いのですが、それは大きな企業がメタバース分野に力を注いでいるからです。企業がビジネス戦略のひとつとして「メタバース」という言葉をプッシュすることと、ユーザーのオンライン体験を広げるために「メタバース」を取り扱っていくことには、大きな違いがあります。

私はMediumで「メタバースとはなんなのか、まずはそれを定義しないといけない」といった記事を投稿しました。そして定義するのであれば、ユーザーの体験から「メタバース」を定義しなければなりません。「メタバースに入ったら、どのような体験があるか」「なぜ、ユーザーはメタバースに入りたいと思うのか」と決められないのであれば、メタバースの話はストップしたほうがいいでしょう。そうしないと、ビジネスの話は広がらないのです。

――なるほど。

オーウェンこの定義づけは、ビジネス戦略やセールス予測を練り上げる前に行うべきです。簡単に想像することは出来ても、その体験をどう形作るかまで考えないといけませんよね。“仮想空間に建てられたビル”に入って何ができるか、あるいは世界の中に配置された“仮想の山”に登ってどのような楽しさを得られるのか。そういった疑問に答えられないのであればナンセンスである、というのがゲームメーカーとしての視点です。昨今のメタバースの盛り上がりの中では、ほとんどそういった話題が取り上げられていませんよね。

――ゲームメディアの人間としても、ゲーム業界の外側から聞く「メタバース」という言葉には大きな認識の違いを感じます。

オーウェンゲームメーカーとして「メタバース」の優れた点は想像できますが、どのような技術を使ってどのような取り組み方で構築していくのか、そこから可視化する必要があるだろうと考えます。

数年前には「VR」でも同じようなことがありましたね。VR技術が盛り上がり始めたころ、こうしたインタビューで「VRについてどうお考えですか」と聞かれる機会がたくさんありました。でも、私としてはやはりユーザー目線でおもしろい体験を想像できなければ行動に移したくありませんし、ビジネスにもならないと考えていました。

でも、いまメタバース分野でコンテンツを開発したり計画しているメーカーは、既存のジャンルとまったく異なる新しいオンライン体験を作ろうとしていますよね。それは素晴らしい美点だと思いますし、私も支援したいと感じます。

――たしかに、そこには「新しい体験を作りたい」という意図が込められていますね。

オーウェン残念ながら、ゲーム業界は遠い将来のことまで目線を向けられていません。どのように斬新で面白い体験を作るか、あまり考えられていないのです。芸術の面からゲーム体験を作っていければまた変わるとも思いますが、ただ新たな操作方法と既存IPやゲームジャンルを融合させるだけでは、大きな変化は起きません。

とはいえ、新しいゲームや新しい体験を生み出して、そこで発生した問題を次々改善していくだけでは、ビジネスとしては非常に難しい。失敗したら大きなダメージを受けるわけですから、既に人気を獲得したIPを拡張していくほうが安全です。しかし、そこで「メタバース」が10年後や20年後のゲーム業界に良い影響を与えられる可能性は、ある意味で良いものだと思います。

――なるほど。先ほどお話しいただいた「これまで体験したことのないようなゲーム」にも繋がるトピックです。

オーウェン他のテクノロジー業界と比べると、特にゲーム分野はイノベーションが少ないのです。新しいテクノロジーを活かして斬新な体験を提供していこうという気持ちを、更に高めていく必要があると考えています。

――「メタバース」だけでなく「NFT」といったキーワードもゲーム業界の中で目立つようになってきました。こうして業界が動きつつある中、ネクソンがどのような切り口でゲームユーザーにコンテンツを提供していこうと考えているか、お聞かせください。

オーウェンエンターテインメントの視点から見ると、オフライン体験からオンライン体験に、リニアな体験からインタラクティブな体験に、ユーザーの興味が移り変わっています。いまの世界のユーザーは、一方的に座って操作をせず物語を見聞きしたりするのではなく、面白いアイデアを活かして自分の作品を作ったり、物語を体験するにも「自分からストーリーに関わってみたい」と考える傾向が高まっています。

私が子どもの頃は、エンターテインメントと言えば映画や本などで、リニアで一方的な体験ばかりでした。今の若者はなにか面白いことがあったら「Instagramに写真を投稿しよう」、または「TikTokにビデオを投稿しよう」といったように、インタラクティブな行動を起こしますよね。そこにある技術やトピックを活かして、シェフのように調理しながら、オンラインで自分の作品を公開しています。これは非常に面白いことですよ。

伝統的なコンテンツを作る企業は、この流れにうまく乗れていません。そうした企業の経営陣は私くらいの年齢ですし、子どもから教わって文化を知ることが多いですからね。しかし、こうしたオンラインかつインタラクティブな楽しみ方がスタンダードになる日は、そう遠くないと思います。

友達と一緒にコンテンツを楽しんだり、新しい体験や作品を共に作っていくような時代は、とても素晴らしい。それは特定の地域に限らず、どの国でも起こり得ることでしょう。日本のユーザーの中からも、新しく面白い体験が生まれてくることを期待しています。

――本日はありがとうございました。

提供:Nexon
《キーボード打海》

「キーボードうつみ」と読みます キーボード打海

Game*Spark編集長。『サイバーパンク2077 コレクターズエディション』を持っていることが唯一の自慢で、黄色くて鬼バカでかい紙の箱に圧迫されながら日々を過ごしている。好きなゲームは『絢爛舞踏祭』。

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