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この状況でもウクライナで起こっていることは支持しない―手描き3DダンジョンRPG『Drawngeon』開発者に訊くロシア国内の現状【特別連載】

『Drawngeon』を手掛けるDarkDes LabsのStanislav Filippov氏にお答えいただきました。

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この状況でもウクライナで起こっていることは支持しない―手描き3DダンジョンRPG『Drawngeon』開発者に訊くロシア国内の現状【特別連載】
  • この状況でもウクライナで起こっていることは支持しない―手描き3DダンジョンRPG『Drawngeon』開発者に訊くロシア国内の現状【特別連載】

ロシアによるウクライナ侵攻は、ゲーム業界にも大きな影響を及ぼしています。Game*Sparkではその実情を読者の皆様に多少でもよりお届けすべく、ウクライナやロシア、さらには影響が直接的にもあるであろう周辺国を拠点に活動するインディーゲーム開発者に連絡を取り、その生の声を緊急連載としてお伝えすることにしました。第三回は、過去に『Drawngeon: Dungeons of Ink and Paper』(インタビュー)でお話を聞いた、インディースタジオDarkDes LabsのStanislav Filippov氏へのミニインタビューをお届けします。

インタビューは全てメールで行われており、下記の質問に対して回答を求めました。非常に機微に触れる内容であり、ロシア国内の情勢も極めて不安定なことから、企画趣旨や記事のアウトプットについては事前に説明をしたうえで、そもそも回答するかどうか、また回答できる質問にのみ回答してもらえれば構わないというルールで打診し、了解を得られたもののみ記事として公開しています。

  • ロシア国内の現状は?

  • 経済制裁も進んでいるが開発へはどのような影響があるか?

  • Steamでの売上は現状ロシア国内で受け取れるのか?

  • ゲーム開発者コミュニティの反応は?

  • ロシア国内のユーザーはどのように反応しているのか?

  • 自身が今回のロシアの侵攻に対してどのように受け止めているか。

なお、本インタビューの返事を受け取ったのは日本時間3月13日5時48分です。状況が時々刻々と変化していますが、回答には極力手を加えず、一部誤解を招きそうな部分は編集の注釈をつける形で補足しています。各回答はインタビュイー個人の見解であることをご理解のうえご覧ください。

第1回「アドビ製品の更新すらできずにどうしていいか分からない」
第2回「ロシアのユーザーにある感情は、困惑、怒り、悲しみ、すべて」

――ロシア国内の現状はどうなっているのでしょうか?

Stanislav Filippov氏(以下Stanislav)もちろん、私がすべての人を代弁することはできませんが、問題が起き始めています。例えば、食品の値段が上がったり、店舗の棚から食品が完全になくなったりしてしまっているのです。

このような事態になり、多くの人はショックを受けました。本当に信じ難い出来事だったのです。多くの人は私たちの政府の行動に賛成していません。しかし残念なことに、支持する人が一定数いることも事実です。たくさんの企業がロシアを撤退し始めていますので、多くの人が職を失うこととなるでしょう。

――ロシアへの経済制裁も進んでいますが開発へはどのような影響がありますか?

Stanislav影響があるとも言えますし、ないとも言えると思います。私は海外のゲームエンジンであるGameMakerを使っており、これはサブスクリプション制となっているのですが、そのうちロシアのユーザーが使用できなくなってしまうのではないかと危惧しています。アドビはすでにソフトウェアの販売を中止してしまいました。そしてゲーム開発と直接関係のない企業も、続々と撤退を表明しているのです。

私は新たにゲーム開発をする計画を立てていたのですが、このような悲惨な出来事が突然起こり、一週間ほど仕事が手につきませんでした。

――Steamの売上は現状ロシア国内で受け取れているのでしょうか?

Stanislav 2月の末、Steamから私の銀行口座に入金することができないというメールが届きました。銀行情報を変更するようにという通知だったのです。実際に売上を受け取ることができるのか、正直わかりません。もしかしたら出来ない可能性もあります。

また、私はXbox向けにもゲームを出しており、こちらもマイクロソフトから売上が支払われるのかわかりません。さらに『Drawngeon』はポーランドのパブリッシャー経由でニンテンドースイッチでも販売しています。これもまた、支払いがどうなるか不明です。つい最近、別のゲームを作り、自らスイッチ向けにリリースする予定だったのですが、制裁により実現するかもわからない状況です。

あと、ロシアではペイパルも使用できなくなりました。多くのアーティストがペイパル経由で生計を立てていたこともあり、彼らはかなりきつい状態です。

――ロシア国内のゲーム開発者コミュニティではどのような反応がありましたか?

Stanislav 全員を代表してモノを言うことはできませんが、私が知っている人は皆、ウクライナで起きていることをとても心配していますし、制裁や各企業の対応がどう自分達の仕事に影響を与えるか、不安になっています。ロシアの大手開発スタジオは、なんとかして国外に拠点を移そうとするのではないかと思います。海外企業が所有するスタジオのいくつかは、閉鎖するということです。

これ以上、多くのことは言えません。私は一人の開発者に過ぎませんし、大きなスタジオに知り合いもいませんので。

――ユーザーはどのように反応しているのでしょうか?

Stanislav 正直、ゲーマーは様々なリアクションをしています。ゲームについてですと、多くの人はゲームを購入することができなくなってしまいました。例えば、Steam、PlayStation、ニンテンドースイッチでゲームを買うことができなくなってしまったのです。ゲーマーの一部は苛立ち、どうして一般のゲーマーにこのような仕打ちをするのか、企業の対応が理解できないでいます。PCゲームのユーザーは、これを海賊版を使う言い訳にする人もいます。ゲーマーはまた、プロセッサー、グラフィックカード、そしてコンソールと言った、ハードウェアの入手に不安を感じています。これから長い間、アップグレードすることができなくなってしまうことでしょう。

――今回のウクライナ侵攻についてどのように思いますか?

Stanislav 今、この国には奇妙な法律や義務が存在します(例えば、ロシア軍について虚偽の発言をすると最大禁錮15年)。情報やウェブサイトの遮断も行われています(とは言え、これを回避する方法を知っている人もいるのですが)。今ウクライナで起きていることは「特殊軍事活動」としか呼ぶことができません(いくつかのメディアは「戦争」という言葉を使ってしまったがため、閉鎖に追い込まれました)。また、今のロシアでは、人々が集まると警察に勾留されてしまうのです。
※編集部注:ロシア軍に関する虚偽の発言をした者は最大禁錮15年になる刑法の改正が3月4日に可決されている。虚偽の発言には今回の一連の出来事を「戦争」「侵攻」と表現することさえも含まれている(BBCなどが詳しく報じている)。

私はこのような状況でも、今ウクライナで起こっていることは、支持しないとはっきり言えます。私は原則的に、あらゆる争いに反対です。ただただ、悲惨なことです。人々が苦しんでいると言うのに、何もできないのですから。

このような事態が1日でも早く収束するのを祈るばかりです。


今後もロシア・ウクライナ両国や周辺国のデベロッパーから返信があり次第、生の声をお届けします。

編集部より

連載の趣旨について

かつてGame*Sparkでもインタビューしたデベロッパーが現在の状況をどう思っているか、そのままの状態で記すことには意味があるものと判断し、1デベロッパー1記事という形で掲載しています。過去のインタビュー対象がロシアのデベロッパーが多かったこと、被害の状況から勘案してもインタビュイーの比率は同数にならないかもしれませんが、今は数多くの生の声を聞くことにフォーカスしてお伝えしていくつもりです。

なるべく偏りが少なくなるよう努力はしますが、そうならない可能性もあること、それが即ちロシア側の声を意図的に多く拾うといった、特定の政治的な意図を込めているわけではないことはご理解いただけると幸いです。あくまで本企画は、突然の戦火に巻き込まれてしまったデベロッパーがどのような状況に置かれてしまったかを、彼・彼女らの視座から語ってもらいそのまま伝えることを目的としており、ゲームとも関係の深い両国あるいはその周辺国で作られた海外ゲームを嗜む読者の皆様が現状を把握する一助になればと思っています。

掲載内容について

冒頭にも記載しましたが、あらかじめ企画の趣旨や記事のアプトプットについては全てインタビュイーに伝えた上で掲載しています。同意が得られなかったものや自身の身の安全を懸念し断られるケースも多数ありますが、いずれの質問についても本企画においては必要なものと編集部では判断しており、趣旨の通りまとめています。

基本的にインタビューの内容についてはほぼ逐語訳であり、こちらから発言にないことを加筆したり、何かしらの発言を誘導したりすることはありません。一方で、そうしたスタンスが故に今後過度に政治的な内容になる、逆にプロパガンダ的な内容になるという可能性を秘めていることは編集部内でも事前に認識しており、掲載にあたっては編集部で慎重に議論したうえで公開しています。また、デベロッパーに対しては必ずしも政治的なスタンスを明かすことは求めておらず、無理矢理に態度を鮮明にすることを求めたり、回答の有無やその内容について善悪の判断をしたりしないということも伝えています。あくまで本連載の趣旨は前掲のとおり「当事者それぞれの視座から現状及び認識を語ってもらうこと」であり、回答の如何を含めてそれを残しておくことには意義があるものと考えています。

なお、ウクライナのデベロッパーについても複数のデベロッパーに連絡をしておりますが、未だ返事がもらえない状況が続いています。とにかく無事であることを心から願っています。

編集方針について

本連載のように毎回デベロッパーにインタビューで政治的な事柄についてスタンスを明示させるようなことは望んでいませんし、話の流れで可能性はあれ、通常のインタビューのスタンスを変えるということはないことも改めてお伝えします。ただし、本連載に関してはうやむやにするよりも突っ込んだ質問が必要であると判断した上でインタビューをしています。

初回からお伝えしているとおり、楽しいゲームニュースがかき消されるような、この最悪な状況が一日でも早く終わることを編集部一同願っています。同時に、突然戦火に見舞われ、日常を奪われた多くのウクライナの市井の人々やゲーム業界関係者を思うとかける言葉もなく、一日も早く平穏が取り戻せることを祈るばかりです。そうした被害に遭われた人々を支援するゲーム業界の動きについても随時お伝えしていきますが、これまで通り日常の記事のボリュームを減らすことなく、ゲーム業界に関連する話題については記事の本数を増やしながら対応してまいります。


《Chandler》
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