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もうひとつのネットゲーム規制条例…秋田県大館市教育委員会突撃インタビュー!当事者たちが語る「私たちが条例化する理由」

秋田県大館市でも「ネット・ゲーム依存症対策条例案(仮)」の試案を準備していることが明らかに。編集部は、同条例をまとめている大館市教育委員会を取材しました。今回、大館市教育委員会の方々に直接お話を伺い、様々な疑問をぶつけてきました。


香川県議会が1月に提出し、3月18日に可決・成立した「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」は4月1日から施行されました。編集部では香川県議会で条例の制定を目指していた人たちへの取材を試みましたが、依然として取材の糸口が掴めないままでした。そんな折、秋田県大館市でも「ネット・ゲーム依存症対策条例案(仮)」の試案を準備していることが明らかに。編集部は、同条例をまとめている大館市教育委員会を取材しました。

今回、大館市教育委員会の方々(高橋善之氏(教育長)、坂上隆義氏(学校教育課 課長)、山本多鶴子氏(教育監)、大越章弘氏(教育研究所 指導主事))に直接お話を伺い、なぜネットやゲームを規制するのか?どうして1日60分という基準を設けるのか?なぜ今なのか?様々な疑問をぶつけてきました。なお、本インタビューは3月上旬頃に実施したものです。
※インタビュー中は初回を除き敬称略。

香川県が炎上する中、なぜ今なのか?


――早速ですが、香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」が炎上している中、同様の素案の準備をしているのは思い切った判断だと思います。世間の反応はどの程度耳に入っていますか?

高橋善之氏正直申しまして、他県のことはそこまで意識しておりません。家庭内のトラブルやリスクを何とかしたいという想いで進めているところです。様々な理由から夜型の生活になり、学校に行けなくなってしまうといった児童の情報も届くのですが、今の体制では改善の見込みがないので、ある程度は批判覚悟で動いている部分はあります。また、我々は条例化することが目的ではありません。夜勤などのお仕事の都合上、子供との接点を増やすことが難しい親御さんも多いです。子供たちの教育に関して、ご家庭に全責任を押し付ける訳にはいきません。社会のシステムで少しでも守ってあげたい!という気持ちで素案を検討中です。

――その理念自体には多くの人が賛同すると思いますが、反対意見の多くとして「家庭の問題は家庭内で管理するべき」「行政は家庭の問題に足を踏み入れて関わるべきではない」といった声が挙げられています。これらに関してはどうお考えでしょうか?

山本多鶴子氏家族の団らんとしてのゲームまでを規制しよう、という意図はありません。「深夜のオンラインゲームを止めたい」ということが本意ですね。

坂上隆義氏私もゲームは大好きでして。それこそ『スーパーマリオブラザーズ』が出た時はビックリしたのを覚えています。寝ないで朝までやった経験もありますし……(笑)

――坂上さんはゲームお好きなんですね(笑)

坂上『ファイナルファンタジー』も本当にやり込んでいましたし、他にもいろいろプレイしました。ただ、やっていたからこそ分かることですが、とにかくゲームってなかなかやめられないんですよ。それこそ昔だったらセーブポイントが無いと終われなかった。決してゲームとネットを悪者にしたいわけではないのですが、最近はYouTubeなどゲーム以外の「やめられない・とまらないサービス」がたくさんありますので、子供たちの生活リズムが崩れることをなんとか避けたい。極力、「制限」という言葉は使いたくありませんが、行政が方針を示していく必要があると考えました。

「科学的な根拠」よりも「目の前の現実」


――世間からは規制をする医学的根拠についても指摘されています。地方の条例とはいえ、制定する上で医学的根拠が求められるのは然るべきことです。香川県の規制ルールを踏襲したわけでは無いとのことですが、具体的にどのような理由で「60分制限」として進めようとされているのでしょうか?

山本睡眠と登下校時間、学業、部活動の時間から逆算した結果、平日は60分から90分ほどしか余暇が無いという結果が出ました。香川県とは算出方法が違うのかもしれません。

――小中学生の平日に60分しか余暇が無いのですか?想像できません。具体的に、今の大館市の小中学生はどのような一日を送っているのでしょうか?

山本子供たちは朝7時には家を出て、7時半には学校に到着しています。授業は8時過ぎから始まります。

――そんなに朝早くに登校するんですか!

山本子供たちって学校が好きなんですよ!共働きが普通になった親御さんのご都合も影響していると思います。親御さんも8時半に仕事場に行かなくてはならない方もいらっしゃるでしょうし、子供のお見送りと自分の支度から逆算して、子どもたちを送り出すのが早くなるのではないかなと。

また、学習指導要領が変わり英語の授業が加わったことで、毎日6時限目、時間にすれば16時まで授業があります。そこから下校、課外授業、自宅学習、夕食の時間を差し引いた上で、最適な睡眠時間を確保しようとすると60分しか残りませんでした。

――なるほど。医学的根拠ではなく、実態から逆算した時間設定だと分かりました。ちなみに条例化を検討する前から、「平日は60分ぐらい」という点も含めて、市民に呼びかけていたのでしょうか?

大越章弘氏そうですね。生徒指導協議会で議論をして「平日は60分くらい」という方針でご家庭に呼びかけてはいました。

――他県出身である我々が突然この条例の素案を聞いたときは驚きました。それでも、大館市内ではある程度の合意が取れている内容なんですね。どのくらい前からこの規制に関する議論はされてきたのでしょうか?

山本20年ほど前から話をしてきました。昔は部活動が盛んな地域であり、小学生でも帰宅時間が19時過ぎでした。よって、現在と同様に時間制限についての議論がありました。

――ずっと議論されてきたんですね……ただ、この20年で時代が変化していますし、ネットやゲームの社会的な意味合いや立ち位置は変わってきました。従来の考え方に固執せず、条例案の全体を再検討されるべきかと思いますが、どうでしょうか?

大越私たちは「平日60分」という制限に厳密にこだわっているわけではありません。。根拠を問われると先程のような説明になりますが、あくまで目安です。制限時間の問題ではなく、夜遅くまで友達とオンラインゲームを遊ぶことが不登校の元凶になっているという認識です。保護者が子供たちから無理やりゲームを引き離すと、子供たちが口を利いてくれなくなります。家庭だけの問題にしておくことはできないという想いからの条例化です。

条例化以外にも方法があれば


――なるほど。確かに「行政と保護者が協力して子供たちを育てていく」「保護者の精神的負担を行政も半分肩代わりする」という解釈をすると“優しい条例”に感じました。とはいえ、引き続き「条例化の必要性」や「家庭内に行政が関わること」に対しては賛否が別れそうです。


高橋条例化しなくても有効な方法があるのであれば、ご教示いただきたいのが本音です。当然、ゲーム依存に関しては規制だけではなく、医療や福祉関係の施策を盛り込んでいます。そのためには教育機関以外とも連携していく必要があります。その辺まで考慮すると条例化した方が、協力を得られるのではないかと思い進めています。

――規制の部分に関して「様々な施策のごく一部である」というお話がありました。事実、秋田県は1930年代から教育関連の施策には力を入れている歴史があります。「少人数学習」では小中学生の学力の向上も達成されました。

山本はい。昭和の時代は全国の中での学力が最下位。地域に資源も無いという状況の中、人材育成に力を入れてきました。昭和の時代は学力向上に力を入れてきた歴史がありましたが、ここ10年に関しては人口減少で、大館市そのものが無くなるという危機意識が芽生えました。ただ単に学力の高い人材を育てて都会に送り込んでいくという、従来の考え方を改めるようになりました。それが「ふるさとキャリア教育」です。教育による地方創生としてメディアにも取り上げていただきました。

――秋田県の人口は約98万人と聞いています。大館市の人口は現在どれくらいなのでしょう?

山本2005年に田代町と大館市と比内町が合併して8万7千人になりましたが、徐々に下がり続けて、現在の人口は約7万人です。人口減少に関しては様々な施策を打ちましたが、これといった特効薬はありませんでした。かつての「学力を向上させて都会の良い大学に行ってもらう」という施策だけでは足りなかったのです。我々の教育方針が人口減少の一端を担っていたと深く反省しています。その反省から「ふるさとキャリア教育」では総合的な人間力をつけていくということを意識しています。大館市の子供たちにこれからの地域を担っていく人材になってもらうための施策です。

子供たちに自己肯定感を持ってもらいたい


――“総合的な人間力”は抽象的な表現ですので、具体的にお聞かせください。皆さんは“人間力”を何だと捉え、どのような方法で身につけさせているのでしょうか?

山本郷土愛や地域に貢献する想いです。9年前から実施している「ふるさとキャリア教育」では、地域の企業の方々と一緒に子供たちを育てています。子供たちは地域の課題を解決するためのプロジェクトに参加することで、仕事を通して大館市のことを知っていきます。施策を始めて9年間、子供たちの様子が変わってきた実感があります。実際、子供たちにアンケートを取ると自己肯定感や地域に貢献したいという意思の割合は全国に比べて高い結果になりました。

――地域の特産を活かした商品開発や売り方まで学べるんですね。とても素敵な取り組みです。特にこちらのアンケート結果「ボランティア活動の参加割合」が90%近いのは凄いことです(※全国は36.1%)。これは学校から必須要項として参加を促されたものではなく、能動的に参加した人数から算出しているのでしょうか?


高橋そうなんです。みんな自分の意志で参加してくれた活動ですね。ボランティアに参加義務は課していません。

――(資料を見ながら)その他のアンケートについても脱帽する結果の数々です。ただ心配なのが「郷土愛を教える」と「インターネット規制」をあわせて考えた場合、子供たちへの情報をシャットアウトして「大館市内で囲い込もう」という印象にも映りかねません。

高橋大館市に残って故郷を支えてもらえるのは嬉しいことですが、もちろん子供たちが他県で活躍してくれることも望んでいます。私たちの時代は、大館市に残る子たちは「都会に行けなかった子」と扱われていました、これからは、大館市に残った子供たちが誇りをもって生活できることが大切です。

山本昔は大館市に残った子供たちは“負け組“扱いだったのです。大館市の大人たちには、未だにそのようにおっしゃる方もいます。

高橋この市に残っている大人の中には「大館には何も無い」と話す方も多いです。ただ、それはその人の心の中に何も無いのであって、大館市に魅力が無いわけではありません。人口が少なくなっても少数精鋭の街を作っていければ、大館市は広がっていけます。

――子供たちに自己肯定感を持ってもらいたいということなんですね。一方で、条例によるネットの制限は地方創生を妨げる要因にも成りかねません。近年、リモートワークやライブコマースなどのネットやITを利用した地方と好相性な提案が活発です。

山本実際、そういった提案をしてくださるIT企業も東京からお見えになっています。サテライトオフィスなどの提案をいただくこともあります。もちろん、我々としてはネットなどのITの力は最大限活用していくつもりです。

大越他県では未成年のスマホ使用を21時以降禁止する動きもありますが、我々はそこまでするべきではないと考えています。勉強とネットはセットになっている時代でもありますので。

ゲーム依存に対する認識について


――素晴らしい教育施策に取り組んでいる中、ネットゲーム規制の文言が悪目立ちしてしまっている印象です。それでも規制を組み込む程の理由があるのでしょうか?

山本引きこもりで不登校になってしまう子供たちがいます。不登校の子供たちを救うための案のひとつです。

大越不登校の子供たちの調査をした結果、ゲーム依存になってしまっている子供がいることが分かりました。未然に防げるようご家庭に注意を促しましたが、改善が見受けられないので、学校としても手立てがありません。そんな子供たちをどうにか救いたいと考えました。

――既に議論されているものと思いますが、ゲーム依存と不登校については「ゲームが原因で不登校になった場合」と「不登校になった生徒の救いとしてゲームが目の前にあった場合」の2パターンがあるのではないかと思います。後者の場合はゲームが不登校の子を救った構図ともいえますが、この観点についてはどうお考えでしょうか?

大越我々もその二つは区別されるべきだと思っています。また、時間による制限については検討中です。香川県の条例では休日も90分の制限を設けるとしていますが、それでは子供たちの自由を奪ってしまうと思います。我々の条例の素案では、休日の制限について明記していません。

――そのあたりは認識されているんですね。時代の流れで変化する価値基準についてはどのように対応していきますか?ゲームに熱中した経験が活かせる職業も増えてきています。育て方次第では、依存体質の子供たちの集中力と興味を逆手にとって、得意分野に特化した人材を育てることもできるのでは。

山本我々も、可能な限り新しい考えを試すようにしています。例えばシェアオフィスです。そういった場所で、不登校の子供たちが大人と一緒にプログラミングをして仕事を学んでいく。昔ながらの施設よりも、その方が社会性も身につくと考えています。

大越条例の中に取り入れたひとつの制限に注目されてしまっていますが、この条例には「不登校になった子供たちと保護者の方々を支援したい」という施策がたくさん入っています。素案なので、制限の部分について柔軟に考えていきたいです。条例の中には、子供たちの状況を毎年確認することも明記しており、しっかりとデータをとっていきます。

当事者にしか分からない子育ての難しさ


――実際、皆さんのご家庭では小中学生のお子さんにどんなルールを貸していますか?

大越私の家庭では、「夜9時半にスマホが充電器に挿さっていること」をルールにしています。とにかくYouTubeを観るんですよね。約束事として絶対に守らせるようにしていますが、こういった方針をとれないご家庭もあると思います。

山本約束を守らせることは、子育ての中でも最も難しいことです。

坂上私の場合は子供と私のゲームの時間をそれぞれ決めて「ここからはお父さんの時間だから」といって、決めた時間以降は私が代わりにゲームをプレイしています。

――(笑)。制限する一方、代わりに何をさせるかが重要です。子供たちには何をさせるべきなのでしょうか?

山本睡眠を十分に摂って欲しいですね。学校に来ても、具合が悪くて保健室で爆睡しちゃってる子供もいますので。低学年だと、21時に寝て6時に起きるというスケジュールになると思います。

――今回のお話で、皆さまのお考えが十分に伝わりました。ただ、これが大館市の方々にも伝わりきるかが心配です。極端な話、親御さんがこの条例の規制部分を誤って解釈し、その上で教育方針を作っていく可能性は無いのでしょうか?


高橋そのようなことが無いように、教育委員会は親御さんに丁寧に説明をしていきます。

――子供たちが何をしているかを分別するためには、親御さんにも正しい知識が必要なのでご苦労があるかと思います。子供は一見遊んでいるようでも勉強していたりするので。

高橋ゲームやネットを通して学ぶこともあると思いますし、ゲームを楽しんでストレス解消することも大事ですね。

さいごに


――本日はありがとうございました。現実問題として条例の制定では「引きこもり対策」としての本質的な改善は難しいという見解が一般的です。今後、具体的にどのような方法で解消されていくお考えでしょうか?


高橋条例化には、お子さんがいない方々に現状を周知させる目的もあります。子供たちがこのような問題に面している事実を知らない市民が多いのです。条例なので教育委員会の一存では成立しません。市長が提出して、議会が承認しなければなりません。結果的に条例にならなかったとしても、ご批判やご指導を含めたネットの反応やメディアさんの力によって広く知ってもらえます。それによって、みんなの意識が高まっていく副次的な効果もあると思います。

この全体の意識が高まることで、いろんな手が打ちやすくなる。これまでは教育委員会主導でやってきましたが、既にいろんなところから情報は集まっていて、メリットが出てきていると感じます。やがては地方のNPO団体が設立されることも期待しています。

――これまで大館市の教育委員会から提案して、条例として成立した前例はあるのでしょうか?

高橋いえ、提案自体が初めての試みですね。とにかく子供たちのために何かをしたい。その一心で動いています。

――長時間お答えいただきありがとうございます。条例の詳細については、医学的根拠、実効性、様々な面から指摘することはできるかもしれません。ただ、限られた選択肢の中から「とにかく子供たちのために何かをしたい!」という考えで試行錯誤しながら挑戦している皆さまの熱意を受け取れました。この問題に対しては、合理的な部分だけではない、様々な要素を踏まえた視点で各々が考えるべきであると感じました。

《text:OGA》