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『CLANNAD』に『Sakura Spirit』、Steamビジュアルノベルの立役者Sekai Projectインタビュー

ゲーム配信プラットフォームSteamで盛り上がりを見せる「ビジュアルノベル」。多数のビジュアルノベルをローカライズ/パブリッシュしている海外企業Sekai Projectにメールインタビューを実施し、ローカライズへの拘りや海外ビジュアルノベル文化などを語ってもらいました。

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『CLANNAD』に『Sakura Spirit』、Steamビジュアルノベルの立役者Sekai Projectインタビュー
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ゲーム配信プラットフォームSteamで急激な盛り上がりを見せる「ビジュアルノベル」。そんなSteamで、国産/海外産問わず多数のビジュアルノベルをローカライズ/パブリッシュしている海外企業Sekai Projectにメールインタビューを実施し、ローカライズへの拘りや海外ビジュアルノベル文化などを語ってもらいました。

インタビューに応じてくれたのは、Sekai ProjectのLicensing&PRマネージャーで、日本での留学経験、そしてJETプログラムで外国語指導助手経験もあるChristopher Ling氏。『CLANNAD』や『グリザイア』3部作のKickstarterプロジェクトが大成功したことでも知られるSekai Projectが一体どういった企業なのか、気になるインタビューは以下よりどうぞ。

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Christopher Ling氏
――Sekai Projectについての自己紹介をお願いします。

Christopher Ling:Sekai Projectはアメリカのカリフォルニア州・ロサンゼルス市のローカライゼーション会社で、日本のメディア・コンテンツの版権管理を専門としています。

――会社としての目的など、お聞かせください。

Christopher Ling:Sekai Projectの主な目的は、クオリティの高さにも関わらず、欧米市場では普通の手段で出版される可能性が少ないコンテンツを届ける事です。それと同時に、インディー・パブリッシャーのコンテンツを幅広い市場に届ける手助けをすることで、(そういったコンテンツが)注目を浴びて貰えるように取り組んでいます。

――日本のゲームをパブリッシングする上で、ビジュアルノベルというジャンルを選んだのはなぜですか?

Christopher Ling:日本のゲームはビジュアルノベル以外のジャンルだと、海外でも普通に入手出来ます。ビジュアルノベルに関しては版権を獲得する出版社が少ないという現状があります。その主な理由として、翻訳費用に対する投資収益率の低さが挙げられています。しかし、我々はタイトルの選び方次第で、欧米ビジュアルノベル市場は確実に存在すると認識しています。

――海外向けの翻訳を行うタイトルの選択基準などはありますか?

Christopher Ling:海外で注目を浴びているタイトルを探しています。もちろん、その「注目」には、関連しているアニメ版や漫画版などのファンの関心が含まれます。また、そういったものだけでなく、まだ世間の注目を浴びていない、我々が将来性を見込んだタイトルも視野に入れています。

――実際に日本のゲームをローカライズして苦労したエピソードはありますか?

Christopher Ling:Sekai Projectは割と新しく立てられた会社ですが、それでもそれなりの苦労を体験しています(笑)。一番目立った問題を挙げるとすれば、難しい分野を中心にしたゲームのローカライズ作業ですね。経済・金融の知識を必要とする「WORLD END ECONOMiCA」は代表的な事例です。そのゲームの翻訳に関わったメンバーは、大学の授業より多くを学べたのではないか、とすら思えました。


『WORLD END ECONOMiCA』、「狼と香辛料」の支倉凍砂氏の作品で、経済・金融をテーマにしている

――ローカライズする上で、こだわっている部分はありますか?

Christopher Ling:特に綴りと文法の問題ですね。ローカライズでは、どんなに優れた翻訳を作成しても、綴りや文法の間違いが読者の楽しみを奪うことに繋がると考えています。

――今までで一番翻訳が難しかったタイトルは何ですか?

Christopher Ling:まだ進行中ですが、『CLANNAD』の翻訳は今までで一番難しい挑戦です。膨大な文章量はもちろん、日本に限らず世界でも伝説的な作品と認知されており、その重大さに「失敗は許されない!」という気持ちで最高のローカライズを届けたいと考えています。

――ビジュアルノベルはSteamでかなりニッチな分野だと思いますが、ユーザーの反応や手ごたえといったものはありますか?

Christopher Ling:ユーザからの反響には大変驚かされました。ビジュアルノベルで遊ぶゲーマーは全体のほんの一部で、ニッチに過ぎないことは明白です。我々さえもSteamで成功するかどうかを疑問に思っていましたが、現実の成果を見て驚きました。Steamというプラットフォームのとんでもないマーケティング・パワーのおかげで、想定よりもずっと広くユーザーに存在を認識してもらえました。その反響からはビジュアルノベルが実際にニッチな市場であるという現実はにわかに信じがたいです

――『CLANNAD』、『planetarian』といったKey作品のほか、フロントウイングの『グリザイア』シリーズなど、ゲームメーカー作品の翻訳も行っていますが、メーカーの反応はいかがですか?

Christopher Ling:『CLANNAD』も『グリザイア』もまだ翻訳途中ですが、『planetarian』に関してKeyさんのご意見やフィードバックを取り入れました。リリースの前後にKeyさんに翻訳監修を行ってもらい、意見・提案等を出していただきました。もちろん、それらはゲームに反映されています。我々は極力クリエーターの意見を尊重したいと考えています。


膨大な文章量の『CLANNAD』、この規模の翻訳には30人で3ヶ月かかるとのこと

――世界中のユーザーをターゲットにしているSteamですが、Sekai Projectがリリースしているビジュアルノベルはどの国で一番盛り上がっているのでしょうか?

Christopher Ling:ユーザと売上のほとんどはアメリカから来ていますが、ヨーロッパからの反響も驚くほどあります。大抵のユーザーは英語版でも満足していますが、たまに既存作品(そして今後の作品)の現地(フランス語・ドイツ語・スペイン語・イタリア語)ローカライズのお願いが来たりします。いつかは着手しようと検討しています。

――クラウドファンディングKickstarterでは『CLANNAD』と『グリザイア』シリーズのプロジェクトが実施されました。『CLANNAD』が54万ドル、『グリザイア』が47万ドルでプロジェクトを達成していますが、ここまでの反響があると予想していましたか?

Christopher Ling:最初から2つのプロジェクトが成功すると信じていましたが、ここでSekai Projectを代表して感謝の気持ちを述べたいと思います。

まさか24時間以内に設定目標の金額が調達されるだけでなく、大幅に超えられるとは誰一人として予測していませんでした。もちろん、各キャンペーンはその作品の風格が大きく影響していますが、この結果が「欧米にも、口だけではないビジュアルノベルのファンがちゃんといるよ!」という日本に対するファンのアピールだと信じています。

――『CLANNAD』はストレッチゴールの達成で、サイドストーリー『CLANNAD ~光見守る坂道で~』がPC版初移植が決定しました。こういったローカライズからの展開というのは、今後も行われますか?

Christopher Ling:VisualArt's/Keyとストレッチゴールの相談をしていたところ、『CLANNAD ~光見守る坂道で~』の案が提示されました。『CLANNAD』の物語の延長で、ファンに喜んで貰えると確信しました。そのようなローカライズ発の話は他にありませんが、是非ともやらせていただきたいと思います。

――Sekai Projectのポートフォリオを見ると、日本からの翻訳タイトルのほかに『Sakura Spirit』や『Sunrider: First Arrival』、『Rising Angels』といった日本以外のタイトルのパブリッシングも行っています。海外でのビジュアルノベルジャンルの開発環境やイベント(日本で言うコミケのような)文化環境など教えてください。

Christopher Ling:私が一番驚いていますが、近年で欧米のビジュアルノベル開発コミュニティは爆発的な成長を見せました。一般的な見解として、欧米ではビジュアルノベルを作るだけのイラスト・音楽・物語の十分な才能を揃えて束ねる事が不可能とされてきました。しかし、近年のリリースはその見解を覆しています。確かに忘れられがちですが、テキスト・アドベンチャーゲームは80年代の欧米が起源ですので、実はそんなに驚くことでもないかも知れません。欧米にはコミケ並のイベントが存在しませんが、アニメ関連イベントにもっとインディ・パブリッシャーの出展が行われることを期待しています。


高い評価を得ている『Sakura Spirit』、先日シリーズ作品『Sakura Angels』がリリースされた

――上記タイトル(『Sakura Spirit』など)を日本向けに翻訳するといった可能性はありますか?

Christopher Ling:是非とも検討していきたいと思います。『Sakura Spirit』の驚くほどの成功は、日本ユーザーから日本版の制作に対する関心が寄せられています。もちろん、決定した時は皆さんに発表させていただきます!

――日本のビジュアルノベルファンに向けて一言お願いします。

Christopher Ling:我々のタイトルリリースが欧米向けであるにも関わらず、関心や応援のメッセージを送ってくれる日本のファンにとても感謝しています。しかも、Kickstarterキャンペーンに投資していただいた人までいます!日本のファンに向けたタイトルを多く作れる様に努力するので、末永く応援をお願いしたいと思います。

――ありがとうございました。

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今まで国産/海外産含めて11本のタイトルをSteamに送り出しているSekai Project。その全てがユーザーレビューで高評価を獲得しており、タイトルの選別眼もさることながら、優れたローカライズ技術の証左とも言えるでしょう。また、海外発タイトルの日本語版制作も検討しているとのことで、日本のビジュアルノベルファンとしても期待が募るのではないでしょうか。日本に本社を置いて、海外向けにローカライズ/パブリッシングを行ってきたMangaGamerと共に、海外のビジュアルノベル市場を牽引する存在となりそうです。
《水京》
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