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【BitSummit】『TOKYO JUNGLE』クリスピーズ片岡陽平氏基調講演、「普遍×普遍=斬新」

ポメラニアンが対ライオンなど手合い違いの取り組みに挑む構図が衝撃的だった『TOKYO JUNGLE』の開発元クリスピーズ代表、片岡洋平氏による基調講演です。21歳で起業した動機は「自分が作りたいゲームを作りたかったから」。

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ポメラニアンが対ライオンなど手合い違いの取り組みに挑む構図が衝撃的だった『TOKYO JUNGLE』の開発元クリスピーズ代表、片岡陽平氏による基調講演です。まずは会社の紹介から。

クリスピーズは2007年に私が創設しました。当時まだ21歳で、通っていた美術学校を中退して仲間と一緒に立ち上げました。会社に所属した経験はありませんでした。ゲームを開発したこともありませんでした。無謀かと思われそうですがその状態でなぜ起業したかというと、自分の作りたいゲームを作りたかったから。シンプルです。

いきなりさらっと言い切りましたが、凄まじい話です。「『トーキョージャングル』って立派なコンシューマータイトルじゃないか。」などという野次を一撃で消し飛ばすインディーズ魂といえます。少し世界線が違っていたらまったく別の記事を書いていたかもしれません。

続いて、PSP『My Stylyst』について。カメラと連動したファッションツールという立ち位置です。今でこそスマートフォンなどで一般化していますが、当時としては目新しいものだったとのこと。そして、次のステップとしてツールではなくアクションゲームを創ろうと決意。『TOKYO JUNGLE』の幕開けです。

昔ゲームを買うたびに覚えた感動を忘れないためにゲームを作り始めた、その興奮・充実感が糧となり今では日常を豊かにするゲームを作りたいと考えている。だから他と同じようなゲームを作りたいとは思わない、とした上で

最も意識したのは、斬新さと普遍性を共存させること。新たらしいゲームを作る事自体はそんなに難しくないかもしれないが、それでは作り手のエゴになってしまう可能性があります。新しいだけではお客様に手にとってはもらえません。そこで、普遍的なものと普遍的なものをかけあわせてユニークなものを作るという方針をとりました。バックアップをファーストパーティーにとりつけられたのは、このコンセプトを貫いたからだと思います。

冒頭の講演で「インディーゲームにはパブリッシャーや消費者から課せられる束縛がない」とありましたが、それは出資者やプレイヤーを無視することではないということでしょう。事実、『TOKYO JUNGLE』は宣言通りのアプローチを成立させ、ありがちに見えながらも確実に新奇性のある作品に仕上がっています。インディーとしては例外的な成功かもしれませんが、体現された可能性の1つです。

ただ、このコンセプトは北米ではまったく評価されませんでした。なぜ舞台がアメリカではないのかだとか、動物が擬人化されているのはおかしいだとか言われてしまい、ニッチすぎるという判断でした。ですから、当時は北米リージョンで発売されないと通告されていました。しかしながら、日本での盛り上がりやSCEJの後押しがあり、最終的には北米でもリリースできました。このコミットはギリギリのタイミングでした。

少々意外でした。意味不明な勢いやノリはむしろ海外で受け入れられそうな気がしなくもありません。もしかすると「アゲメス」や「サゲメス」の対訳が混迷を極めたりしたのでしょうか。ただ、ストーリーモードがいくらか日本文化をベースにしていたため、ローカライズが難しかったであろうとは想像できます。

去年『TOKYO JUNGLE』発売前にE3へ訪れた時、よく聞かれた質問があります。それは、「日本のインディーシーンはどうなっているのか?」「有名なインディーゲームクリエイターは誰か?」というもの。返す言葉に困りました。日本ではユーザーや開発者、メディアに認識される形でインディーシーンが確立されているか明言することができなかったからです。海外ではインディーは評価され、チャレンジャーとされています。その結果を重視していると肌で感じます。しかし日本だと、大きなパブリッシャーやデベロッパーに属することが重要であり評価されることと認知されているのではないでしょうか。名刺に書かれた文字列を重視してしまっているのではないでしょうか?

内容的にじつにインディー的な『TOKYO JUNGLE』を創りながら、ソニーの力添えを獲得したクリスピーが発するからこそ重みのある言葉です。極端に解釈しすぎるのも好ましくありませんが、日本国内がいささか権威主義的なきらいにあることはビットサミット中しばしば耳にした指摘であり、今後日本のゲーム業界に課せられた課題の1つとして認識してもさほど間違いはないでしょう。

少し前に、「日本のゲームは終わった」という説が出ました。海外のメディアからよく聞かれる質問として、「日本のゲームは終わったのか、または終わりかけているのか?」というものがあります。ですが、私からすれば終わってもいないし終わりかけてもいません。

たしかに少し迷走していたこともあるかもしれません。しかし過去を振り返ると、日本の文化や技術は海外でとても評価されてきました。それらがゲームや漫画、アニメへ脈々と伝わっているのです。日本人の感性は独特で、西洋がフォトリアルを志向していた時、日本では鳥獣人物戯画を描いていたのです。これはまさに漫画やディフォルメの先祖にあたります。そして、こういった絵は西洋で新しい価値観を持つものとして評価されました。過去の日本人の作品を見ていて思うのは、日本の文化に自信を持つべきだということです。

国内外で物議をかもした「日本のゲームは終わった」説は、今回ビットサミットが開催される動機ともなった重要な部分です。片岡氏はこれを否定。『TOKYO JUNGLE』は先程あったように北米でのリリースが見送られるリスクがあるほど「日本度」の高いゲームでした。それは世界観やゲーム性だけでなく、もっと根底にある基盤です。ポメラニアンが凶暴な肉食獣に立ち向かう構図、なんと日本的な光景でしょうか。

また、片岡氏は、E3などで日本では残虐に感じられる描写でエキサイトしている光景から、同じ方向性で日本人がゲームを作るのは無理だと感じた、日本と海外では面白いものにはギャップがある、と発言しています。それを踏まえた上で、日本がグローバルな成功を目指すにはマーケティングでどうこうするのではなく敢えて自分たちが面白いと思うものをどんどん作るべきで、それが評価されることこそが古来よりの海外と日本の関係だとしました。必ずしも一般化はできませんが、日本人が掲げる理想としてこれ以上のものはないでしょう。

日本人でたとえばエログロな作品を創り上げるクリエイターがいないわけでもありません。ですが、そういった人物による作品ですら、海外の明確にグロテスクな作品とは何かが違います。その相違の発生要因を日本文化の存在に認めるというのは、納得感のある主張です。

※誤字を修正しました。大変失礼いたしました。
《Gokubuto.S》
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