物理ベースでの絵作りを通して見えてきたもの/アグニのデザイナーが語るリアルタイムワークフロー | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

ハードコアゲーマーのためのWebメディア

物理ベースでの絵作りを通して見えてきたもの/アグニのデザイナーが語るリアルタイムワークフロー

ビリーバビリティとフォトリアルは、世界中で愛されるゲーム作りを行う上で、両輪となる概念です。そしてビリーバビリティがコンセプト的な上位概念なら、フォトリアルは作品作りの根幹をなす技術であり、思想です。スクウェア・エニックス オープン・カンファレンス201

メディア スクリーンショット
スクウェア・エニックス オープン・カンファレンス2012を通して感じられたキーワードは「ビリーバビリティ」と「フォトリアル」です。ビリーバビリティは「信頼性」や「もっともらしさ」などと訳され、文化的にも歴史的にも異なる全世界のユーザーが、違和感なくフィクションの世界に入り込む上で重要な概念。「フォトリアル」とはそのものずばり、実写テイストな表現です。

テクノロジー推進部リードアーティスト 岩田亮氏

フォトリアルな映像作りが求められる背景には、大規模開発時の映像リファレンスをどのように設定するか、という問題もあります。一人ひとりの主観的基準が異なる以上、大規模開発を効率良く行うためには、物理現象をリファレンスにすることが、最も効率が良いのは明らかでしょう。しかし、これはファンタジー的な世界観を否定するものではありません。そこで求められるのが「ビリーバビリティの追求」というわけです。

スクウェア・エニックスCTO 橋本善久氏

つまりビリーバビリティとフォトリアルは、世界中で愛されるゲーム作りを行う上で、両輪となる概念です。そしてビリーバビリティがコンセプト的な上位概念なら、フォトリアルは作品作りの根幹をなす技術であり、思想です。スクウェア・エニックス オープン・カンファレンス2012で11月23日、テクノロジー推進部の岩田亮氏の講演「リアルタイムワークフロー実演解説」も、そうした思想が色濃く感じられる内容でした。


■物理ベースの考え方がなぜ必要なのか

「ヴィジュアルワークス部の映像と同品質のリアルタイム動画を作るために、テクノロジー推進部では、これまでさまざまな検証を行ってきました」と岩田氏は切り出しました。実際に『Agni's Philosophy FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO』はヴィジュアルワークス部が作成したプリレンダーCG映像をベースとしていますが、リアルタイム動画のための技術がなければ、絵に描いた餅となります。

中でもポイントとなるのが質感の表現です。そのためこれまで、静物やビル内などの風景をデジカメで撮影し、それをベースにプリレンダーCGとリアルタイムCGを制作。両者の質感を埋める基礎研究が行われてきました。岩田氏は物理的な考え方をベースにすると、常に同じ結果が得られるのが最大のメリットだといいます。それならコンピュータに任せれば良い。そのぶんクリエイティブな作業に時間が割けるというわけです。

「はじめは自分自身ピンと来ませんでしたが、やっていくうちにわかりました。遠回りなようでいて、実は一番の近道でした」(岩田氏)

こうした基礎研究の結果、岩田氏はレンダリング時の質感パラメータ決定で、ちょっとしたコツを見つけたといいます。キーワードは「拡散反射(ディフューズ)」「鏡面反射(リフレクション)」「ざらつき(グロッシー)」「フレネル」で、DCCツールでこの4パラメータを各オブジェクトに設定するだけ。しかも物体が金属か、非金属かが分かれば、自動的にすべてのパラメータが決定されるというのです。

これらはすべて、光が物体に当たったときに、材質に応じてどのように反射するか、という特性をまとめたもの。拡散反射では物体を見る角度で変化せず、鏡面反射は反射部位が見る角度で変化する特性があります。表面のざらつきは反射のボケ具合に影響を及ぼし、フレネル(物体を見る角度による映り込みの変化)は正面から側面にかけて、映り込みが変化します。


■ルミナスエンジンとDCCツールを同期させる

まるっとまとめると、物体が非金属なら「フレネルする」→「鏡面反射に色がつかない」→「拡散反射が必要」→「ざらつきの有無を設定」。逆に物体が金属なら「フレネルしない」→「鏡面反射に色がつく場合がある(物体に応じて固有の色を設定)」→「拡散反射が不要」→「ざらつきの有無を設定」という具合です。「この原則を活用するだけで、かなりフォトリアルなレンダリングが可能になります」(岩田氏)。

その後、ライティングを施してレンダリングすればCG映像が完成・・・となるのが通常の工程です。しかし、いちいちライティングを設定してレンダリングを繰り返すよりも、実写作品でのライティング調整のように、ライトの位置や強さなどを変更すれば、リアルタイムにレンダリング結果が確認できる方が、作業効率が上がるのは明らかです。これを実現できる環境・・・それはゲームエンジンに他ならないでしょう。

そこでテクノロジー推進部では、Luminous StudioとDCCツールの同期を実現。デモではMayaとLuminous Studioを同時に立ち上げ、双方の画面が同期する様が紹介されました。Maya上でオブジェクトを動したり、カメラを操作したりすると、Luminous Studio上でも同じように変化。その逆も可能です。そのため実機テストをいちいち行う必要がありません。DCCツール上での動作は、そのまま実機でも担保されます(ただし鏡面反射が苦手なところもあり、キューブマップへの自動的な置き換えが行われているそうです)。

またPhotoshopとの連携デモも行われました。Luminous Studioでスクリーンショットをとり、Photoshopでポストエフェクトをほどこして雰囲気を変更。その結果をリアルタイムにフィードバックして修正させられます。ただし「素材データと、クリエイティブな工程を厳密に切り離すことが大事」だと補足しました。現実にあるものを、そのまま再現し、そこに演出的な光を当てていくという姿勢が重要というわけです。


■社内教育用のテキストも制作

ちなみにデモ中にLuminous Studioがフリーズするハプニングがありましたが、Mayaのシーンデータを同期させて、すぐにデモが継続されました。このようにゲーム側がフリーズしても、ツールが残っていれば作業を復旧できると言う思想のようだ。
また地味な点ながら、画面キャプチャ機能を用いて、ルミナスエンジン上のキャプチャムービーを簡単に撮ることができ、これがチェックやデバッグなどに非常に役立ったと補足されました。

余談ながら、どれだけ高性能なツールがあっても、ある程度の人数のアーティストが使いこなせなければ、実際のゲーム開発には役立ちません。そこで岩田氏が中心になって、フォトリアルなアセットを作るための社内マニュアル作りが進行中とのこと。Mayaのチュートリアルをクリアした程度のアーティストが、楽しんで学べるようにすることが目的で、かなり良い手応えを感じているとのことでした。

ちなみに、本レポートを読むと岩田氏はバリバリのテクニカルアーティストという印象も受けますが、本職はCGアーティスト。主人公アグニのキャラクターデザイナーでもあります。その一方で技術面にも興味があったとのこと。「物理ベース」と聞くとアレルギーのあるアーティストも多い中で、異色の存在でしょう。

最後に本カンファレンスを主導した、同社CTOの橋本善久氏が「本当に物理ベースのワークフローというわけではないが、多くのCGアーティストが一定以上の品質で結果を出すための仕組み」と補足。講演が締めくくられました。
















【関連記事】
次世代の物量を乗り越える/『Agni's Philosophy』の最適化問題
まるでゲームAIの大統一理論/次世代ゲームAIのアーキテクチャとは?
リーダーは泥まみれになる覚悟をもて!橋本善久氏のプロマネ講座
失墜した信頼は取り戻せるか?『FFXIV』吉田直樹プロデューサーが講演
《インサイド》
【注目の記事】[PR]

メディア アクセスランキング

  1. 『Fallout 4』のボストンはどこまで再現されている?現実との比較映像

    『Fallout 4』のボストンはどこまで再現されている?現実との比較映像

  2. 『Fallout 4』DLC「Far Harbor」の舞台は実在の島がモデル?

    『Fallout 4』DLC「Far Harbor」の舞台は実在の島がモデル?

  3. クリスティがヒロイン役? 実写版映画『TEKKEN』のトレイラーが公開

    クリスティがヒロイン役? 実写版映画『TEKKEN』のトレイラーが公開

  4. 『FF7』のミッドガルを超細かく再現した『Minecraft』ファン作品

  5. 深夜の警備ホラー続編『Five Nights at Freddy's 2』無料デモが配信開始

  6. Aimbotをリアルで再現した彼らが今度は『タイムクライシス』をリアルで再現

  7. 速度アップの「Turboモード」!『DmC: Definitive Edition』比較プレイ映像

  8. PC版『GTA V』ゲーム内スマホを現実のスマホで操作!タッチとスワイプでタクシー手配も

  9. もはや実写! Modで超リアルになったPC版『GTA IV』スクリーンショット

  10. SF深海ホラー『SOMA』本編以前の物語を描く実写映像―ここでなにが起きたのか

アクセスランキングをもっと見る

page top